「…ねえ、ハーレイ。今のハーレイは、何歳だっけ?」
小さなブルーが、首を傾げて尋ねたこと。
休日の午後の、お茶の時間に。
ブルーの部屋にあるテーブルを挟んで、向かい合わせで。
「何歳って…。お前も充分、知ってる筈だが?」
誕生日プレゼントも貰ったからな、と返したハーレイ。
夏休みの残りが三日しかない、八月二十八日がハーレイの誕生日。
その日を控えて、小さなブルーは悩んでいた。
ハーレイに羽根ペンを贈りたいのに、お小遣いでは買えなくて。
「…うん。ハーレイ、三十八歳だよね」
会った時には三十七歳だったけど、とブルーは頷く。
「ぼくよりも、ずっと年上なのが、今のハーレイ」と。
「その通りだ。そして、お前はチビだってな」
俺よりも遥かに年下のチビだ、とハーレイは笑った。
「前とは逆さになっちまったな」と、「今度は俺が年上だぞ」と。
前の生では違った年の差。
チビの子供に見えたブルーは、ハーレイよりも年上だった。
アルタミラの檻で暮らす間に、成長を止めてしまったから。
未来への夢も希望も失くしたブルーは、育つことさえ忘れ果てた。
「育っても何もいいことは無い」と、無意識の内に思い込んで。
それほどの孤独と絶望の中で、長い年月を生き続けて。
(…それが今では、甘えん坊のチビで…)
見かけ通りのチビの子供だ、とハーレイは頬を緩ませる。
今のブルーは幸せ一杯、そういう子供。
本物の両親と一緒に暮らして、満ち足りた日々を過ごしていて。
それに「自分」の方も同じに、豊かな生を送って来た。
三十八歳の今になるまで、前の生とは違った日々を。
小さなブルーと再会するまでは、本当にただのハーレイとして。
(…まさに充実の人生ってヤツで…)
これからだって、もっと充実してゆく筈だ、と嬉しくなる。
小さなブルーが大きくなったら、今度こそ二人で暮らしてゆける。
前の生のように、恋を隠さなくてもいいのだから。
ブルーが十八歳になったら、プロポーズして。
(…ブルーが断るわけがないから、結婚式を挙げて…)
それからは、ずっと一緒なんだ、と夢が大きく膨らむけれど…。
「…ハーレイ?」
聞いているの、と赤い瞳に見据えられた。
「ハーレイの方が年上だよね」と、睨み付けるように。
「あ、ああ…。それがどうかしたか?」
「年上なのが分かってるんなら、酷くない?」
今のハーレイ、とブルーは不満そうだった。
「年上のくせに、ぼくにちっとも甘くないよ」と。
「はあ? 甘くないって、どういう意味だ?」
「そのままだってば、いつもケチだし!」
前ならくれたキスもくれない、とブルーは唇を尖らせた。
「キスは駄目だ」と叱ってばかりで、ぼくを苛める、と。
「おいおいおい…。それはお前がチビだからでだ…」
「聞き飽きたってば! 年上だったら、甘やかしてよ!」
年上のくせに酷いんだから、とプンスカ怒り始めたブルー。
(…やれやれ、またか…)
これだから年下のチビは…、と思いながらも浮かべた笑み。
我儘なブルーも可愛いから。
年下になったチビのブルーが、ただ愛おしく思えるから…。
年上のくせに・了
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