「ねえ、ハーレイ…。ぼくにキスして」
おでこや頬っぺたじゃなくて唇にだよ、とブルーがつけた注文。
ハーレイと過ごす休日の午後に、テーブルを挟んで向かい合わせで。
此処はブルーの部屋の中だし、この時間なら誰も来ないけれども…。
「キスは駄目だと言ってるだろうが。何度言ったら分かるんだ」
いい加減にしろよ、とハーレイはブルーを睨んだ。
「俺は子供にキスはしない」と、お決まりの台詞を口にして。
小さなブルーが前のブルーと同じ背丈になるまでは、キスはお預け。
そういう決まりになっているのに、ブルーは一向に諦めない。
こうして二人きりになる度、「ぼくにキスして」と言い出して。
時には「キスしてもいいよ?」と誘いもして。
(つくづく懲りないヤツだな、こいつは…)
一度、ガツンと叱ってやるか、と目の前のブルーを睨み付ける。
相手が柔道部員だったら、「すみません!」と青ざめそうな瞳で。
「いいか、あんまり繰り返してると、本気で怒るぞ!」
怒鳴られたいのか、と脅してやった。
ゲンコツで殴りはしないけれども、胸倉くらいは掴むかもな、と。
その状態で、「いい加減にしろよ?」と揺さぶって。
「分かったか!」とドンと突き飛ばしたりも。
「…怒鳴るって…。ハーレイが、ぼくを?」
「当然だ! 俺にも我慢の限界はある!」
そうなってからでは遅いんだぞ、と腕組みをした。
これに懲りたら、二度とキスなど強請るんじゃない、と怖い顔で。
「……ハーレイ、怖い……」
そんなに怒らなくったって、とシュンとしたブルー。
どうやら効果はあったようだ、とハーレイは満足したのだけれど。
暫くションボリしていたブルーが、ふと顔を上げた。
赤い瞳を瞬かせてから、思い切ったように…。
「あのね…。さっきのハーレイ、怖かったから…」
ビックリしたから、今度は褒めて、とブルーは瞬きをする。
「怖がらせた分のお詫びをちょうだい」と、甘えるように。
「お詫びって…。詫びるのは、お前の方だろう?」
俺を怒らせたのはお前だ、と叱ったけれども、ブルーは聞かない。
「ハーレイのケチ!」と頬を膨らませて。
「キスはしないし、おまけに怒るし、酷すぎだよ!」と。
「ホントのホントに酷いんだから…! ハーレイの馬鹿!」
「おいおい、それはこっちの台詞だぞ」
自分の立場が分かってるのか、と言ってはみたものの…。
(…こいつの場合は、言うだけ無駄で…)
懲りてくれないチビだったな、とハーレイも充分に承知している。
だから…。
「よし、分かった。褒めるんだな?」
「そう! ぼくをションボリさせちゃった分!」
お願い、とブルーが顔を輝かせるから、ニッと笑った。
「なるほど、実に欲張りで素晴らしいな。…お前というヤツは」
「欲張り?」
「ついでに酷く自分勝手で、我儘言いたい放題で…」
「それ、褒めてる?」
ちょっと違う気がするんだけれど、とブルーが言っても気にしない。
「これでいいんだ。褒め殺しという言葉があってな…」
存分にお前を誉めてやろう、と続けてゆく。
チビのブルーの「困った部分」を、あげつらって。
「キスは駄目だと言っても聞かない、立派な頑固者だよな」と…。
怒らないでよ・了