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サボりたい時には

(……んーと……)
 どうしようかな、と小さなブルーが思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日、夕食の後で部屋に戻って。
 今日の授業で、出た宿題。
 ハーレイの古典の授業ではなくて、まるで違う科目。
 それのレポート、提出期限は来週の末。
 帰宅してから、もう早速に手を付けたのだけれど…。
(ハーレイが来るか、気になっちゃって…)
 何度も出掛けて、覗いた部屋の窓の外。
 二階の窓から下を見下ろし、庭を隔てた門扉の向こうを眺めていた。
 其処に立つ人影が見えないかと。
 そうでなければ、表の通りを前のハーレイのマントの色の、車が走って来ないかと。
(あの色の車が走って来たら…)
 大抵はハーレイが乗っているから、それを見たくて机を離れた。
 「もう来るかな?」と、「今日は来てくれるといいのに」と。
 そうやって気が散っていたから、無駄にしてしまった時間が沢山。
 レポートは最後まで書けていなくて、きちんと仕上げたいのなら…。
(今日中に残りをやってしまって、明日、読み直して…)
 それでおしまい、その形が「一番早い」と思う。
 いつ提出の日がやって来たって、「もう出せるよ」と誇れる形にするのなら。
 明日になって別の課題が出たって、「またレポートなの?」と慌てずに済むようにするなら。
(…普段のぼくなら、そうなんだけどな…)
 今みたいにレポートが残っているなら、急いで「続き」。
 母に「お風呂に入りなさい」と言われる前に、全部終わってしまうようにと。
 流石に、パジャマでは出来ない宿題。
 下手をしたら風邪を引いてしまうし、やるなら、服を着ている間。
 自分でも充分、承知なだけに、いつもだったら机に向かう。
 「今の間に頑張らなきゃね」と、気合を入れて。
 レポートの続きをやってしまおうと、サッと勉強机の前に座って。


 けれど、何故だか出て来ない「やる気」。
 自分らしくないと思うけれども、机に向かおうという気がしない。
 「どうしようかな?」などと、レポートのことを考えるだけで。
 今日の間に仕上げるべきか、明日に延ばしてもいいものかと。
(提出期限は、来週の末になるんだから…)
 何も急いで「今日」やらなくても、きっと安心だと思う。
 明日も明後日も、その先だってあるのだから。
(週末は、ハーレイが来てくれるけど…)
 午前中から訪ねて来てくれて、夕食の後のお茶まで一緒。
 そんな風に週末を過ごしていたって、「レポートをやる時間」はある。
 ハーレイが来るまでの時間にやるとか、「またな」と帰って行ってしまった後とかに。
(そういう日なら…)
 きっと気分が弾んでいるから、宿題だって「やる気」充分。
 ハーレイに会えて、大満足で。
 とても御機嫌で、もしかしたら鼻歌混じりなくらいで。
(…鼻歌を歌いながらレポートでも…)
 きちんと書けているのだったら、誰も怒りはしないだろう。
 肝心のレポートの中身の代わりに、「歌詞」さえ書いていなければ。
 ハミングしていた「お気に入りの歌」の、歌詞をウッカリ書かなかったら。
(それをやったら、先生、カンカン…)
 いくら自分が優等生でも、きっと先生に呼び出される。
 「ブルー君?」と先生の部屋に呼ばれて、レポート用紙を指差されて。
(…呼び出しを食らわなくっても…)
 採点されて返されたレポート、其処には大きく「バツ印」がついていることだろう。
 赤い色のペンで、デカデカと。
 歌詞を書いてしまった部分の下には、赤い色で引かれた線だって。
(…遊び心のある先生で、先生も、その歌、大好きだったら…)
 レポートは減点されていたって、歌詞の続きが赤いペンで書かれているかもしれない。
 続きでなければ、先生が「特に気に入っている」部分の歌詞の抜粋。


 それも悪くはないけれど。
 レポートで減点されてしまっても、先生と「お気に入り」がお揃いだったら楽しいけれど。
(…そんなレポート、出してしまったら…)
 きっとハーレイの耳にも入って、この家に来た時に笑われるだろう。
 「お前、この歌、好きなんだってな?」と、可笑しそうに。
 「レポートにまで歌詞を書いちまうほど、好きなんだったら、歌わないか?」と。
 もちろん、鼻歌ではなくて。
 「ちゃんと声に出して歌うんだぞ?」と、ハーレイは「聞き役」に徹してしまって。
 一緒に歌ってくれるのだったら、恥ずかしいとは思わないのに。
 「ハーレイと歌を歌えるなんて」と、嬉しい気持ちが膨らむのに。
(だけど絶対、そういう風にはならないんだよ…)
 大恥をかいて終わりだよね、と分かっているから、レポートに歌詞を書いてはいけない。
 どんなに御機嫌で取り組んでいても、鼻歌混じりに挑んでいても。
(その辺は、きちんとチェックするから…)
 後で読み直して、「書いちゃってる!」と気付いて、消して書き直す。
 そういう時間を充分に取るなら、早めに仕上げて、余裕を持たせるべきだけど。
 いつもだったら、急いで取り組むものなのだけれど…。
(…今日は「やる気」が行方不明で…)
 留守なんだよね、と零れる溜息。
 どうしたわけだか、「やる気」が「いない」ようだから。
 家出したのか、心の何処かで眠っているのか、顔を出してはくれないから。
(やるぞ、って気持ちが出て来なくって…)
 こういう時には、やっても無駄、と子供ながらも経験は多数。
 優等生でも、「やる気」が無ければ、何の成果も上がらないもの。
 机に向かって、レポートを書こうと思っていても。
 宿題の問題を解いてやろうと、勉強机の前に腰掛けていても。
(…とても効率、悪いんだよね…)
 いつも以上に時間がかかって、いたずらに時が流れてゆくだけ。
 「もう、こんな時間?」と、時計を眺めて驚くほどに。
 まるで進んでいない宿題、それに愕然とするほどに。


 こんな時には、やっても駄目、と頭をプルッと振ってみる。
 「やる気」が留守なら、時間は無駄に「盗まれてゆく」だけだから。
 どれほど自分に気合を入れても、「やる気」は戻って来てはくれない。
 「戻るべき時」が来るまでは。
 家出している「やる気」や、心の中で寝ている「やる気」が、「戻ろう」と動き出すまでは。
(…家出にしたって、寝てるにしたって…)
 そういう「やる気」は、捜し出せない。
 自分で頑張って捜してみたって、「戻るもんか」と逃げてしまって。
 あるいはグッスリ眠ってしまって、捜索隊が出ていることにも気が付かないで。
(…行方不明になっちゃった時は…)
 いない「やる気」を捜しに行っても、見付からない。
 ついでに「やる気」がいない状態、それで何かに取り組んでみても…。
(…ろくなことにはならないものね?)
 母に「お風呂よ!」と呼ばれる時間になっても、きっと終わっていないレポート。
 「やる気」が家出をしていなかったら、とうに仕上げているのだろうに。
(…ホントに、ちっとも出来ていなくて…)
 時間を盗まれるだけだろうから、こうした時には「しない」方がいい。
 「やる気」が戻って来るまでは。
 明日か明後日か、週末なのか、とにかく「帰って来てくれる」までは。
(…時間を無駄にしてしまうよりは…)
 サボっちゃうのが一番だよね、と考える。
 「やる気」が行方不明なのだし、つまりは「やりたくない」ということ。
 とても珍しいことだけれども、今日の自分は「サボりたい」。
 宿題のレポートに取り組むよりかは、他の何かをやってみたくて、まるで出ない「やる気」。
 家出したのか、眠っているのか、「やる気」の行方は分からないけれど。
 「サボろうかな?」と囁く「心の声」なら、今も聞こえているのだけれど。
(…サボりたい時には、サボッちゃうのが…)
 きっと一番、と固めた決意。
 このまま「やる気」を捜しているより、「今日はサボリ」と。
 母が「お風呂よ」と呼びに来るまで、レポート以外のことをしよう、と。


 サボッちゃおう、と決めた途端に、ポンと浮かんだ「読みたい本」。
 お気に入りの本で、何度読んでも飽きない「それ」。
(よーし…)
 お風呂に入るまでの時間で、どのくらい読めることだろう。
 それに本なら、お風呂上がりにも、ベッドで続きを読めるから…。
(風邪も引かなくて、一石二鳥…)
 そうしようっと、と本棚から本を引っ張り出した。
 すっかり覚えてしまっているから、「一番、読みたい気分」の箇所を広げて読む。
 本の世界に吸い込まれるように、夢中で読み進める内に…。
「ブルー、お風呂よ!」
「はぁーい!」
 続きは後で、と本に栞を挟もうとして気が付いた。
 有意義な時間を過ごしたけれども、その「時間」。
 レポートをしないで、すっかりサボって、本の世界に引き込まれて過ごしていたけれど…。
(…前のぼくだと、サボリだなんて…)
 けして許されはしなかった。
 「やる気が無いから」と、「ソルジャー・ブルー」がサボっていたら…。
(…ミュウの子供が殺されちゃうとか…)
 とんでもない結果を招いただろう、前の生。
 今ならサボってしまっていたって、何も起こりはしないのだけれど。
(……凄く贅沢……)
 サボりたい時には、サボってしまっていいなんて…、と今の人生に感謝する。
 「やる気」が行方不明だったら、今はサボっていいのだから。
 いない「やる気」が見付からないまま、歯を食いしばって頑張らなくてもいいのだから…。

 

            サボりたい時には・了


※宿題のレポートをやる気が出ないブルー君。「サボっちゃおう」と決めるくらいに。
 今はサボリも平気ですけど、前の生だと出来なかったこと。サボれる世界は贅沢ですv









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