(今日は来てくれなかったけれど…)
柔道部が忙しかったのかな、と小さなブルーが零した溜息。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は来てくれなかったハーレイ、前の生から愛した人。
青い地球の上に生まれ変わって、また巡り会えた愛おしい人。
毎日だって会いたいけれども、なかなか上手くいかないもの。
今のハーレイは学校の教師で、今の自分はハーレイが教える学校の生徒。
遠く遥かな時の彼方と、同じようには運びはしない。
「ソルジャー・ブルー」と「キャプテン・ハーレイ」、そう呼ばれていた頃のようには。
あの頃だったら、「ブルーの所を訪ねて来る」ことも、ハーレイの仕事の内だったのに。
キャプテンとしての一日の報告、それを聞かない日は無かったのに。
(どんなに忙しい時だって…)
夜も仕事で、青の間に来られなかった時でも、次の日の朝には「いた」ハーレイ。
いつの間に仕事を終えて来たのか、「ソルジャーのベッド」に入っていて。
ただ添い寝だけで夜を過ごして。
(それも無理なほど、忙しくっても…)
やはり翌朝には「やって来た」。
キャプテンの一日は、青の間で始まるのが常だったから。
ソルジャーに対しての「朝の報告」、それがキャプテンの大切な仕事。
前の日に来られなかった時には、その分の報告までも含めて。
それが含まれていない時には、「これから始まる一日の予定」を伝えるもの。
ソルジャーが行くべき視察の予定も、船のメンテナンスやら、様々なこと。
「報告すべきこと」は多くて、けれど「少ない」のがキャプテンの「時間」。
白いシャングリラを纏めてゆくには、ありとあらゆる仕事がある。
端から全てこなしていたなら、アッと言う間に終わる一日。
たまには暇な時があっても、「いつ、暇なのか」は読めないもの。
急な修理が入る時だの、他のセクションから呼ばれて出掛けてゆく時だのと。
そうなる前にと、朝一番に組まれていた予定が「ソルジャーとの朝食」。
朝食は必ず食べるものだし、その間ならば「報告」も出来る。
その日の予定も、前の日の間に伝え損ねたことなども。
ソルジャーとキャプテン、そういう間柄で過ごした頃なら、毎朝、会えた。
恋人同士になるよりも前から、その習慣があったお蔭で。
(…誰も変には思っていなくて、朝御飯の係もいたものね…)
前の日の内に「明日は、これを」と頼んでおいたら、係の者が作った朝食。
ハーレイの分も、前の自分が食べていた分も。
(ぼくの食事はホットケーキで、ハーレイの方はトーストだとか…)
お互い、違うメニューにしたって、係は少しも困らなかった。
ハーレイの方には、朝からオムレツやソーセージなどの料理がたっぷり。
食が細かったブルーの方は、ホットケーキだけで済ませた時だって。
(どんな注文でも、朝御飯はきちんと作るのが食事係の仕事で…)
朝食の支度を整えた後は、直ぐに青の間から退出した。
ソルジャーとキャプテンの食事は、「朝の報告」の時間。
船の仲間たちには「話せない内容」もあるだろうから、そうして出てゆくのが係の礼儀。
それをいいことに、甘い時間を過ごしていた。
重要な報告が無かった時は。
ソルジャーとしても、キャプテンとしても、「話すべきこと」が無かった時は。
(だけど、今だと…)
別々の家で暮らしている上、教師と生徒になってしまった。
前の生のようにはゆかない毎日、「ハーレイが来ない日」も少なくない。
今日が、そうなってしまったように。
「まだ来ないかな?」と待っている内に、「来てくれる時刻」を過ぎていたように。
今のハーレイは、遅い時間には、けして訪ねて来てくれない。
「お母さんに迷惑かけるだろうが」と、食事の支度を心配して。
夕食を食べる人間が一人増えたら、大変だからと。
「俺も自分で飯を作るから、分かるんだ」と、ハーレイは、けして譲りはしない。
母が「ご遠慮なく、いらして下さいな」と、何度も笑顔で言っても。
父も同じに「いつでも、どうぞ」と繰り返しても。
夕食の支度が始まる頃には、もう「来ない」のが今のハーレイ。
柔道部で遅くなった時でも、会議が長引いたような時でも。
今日のハーレイは、柔道部で遅くなっただろうか。
それとも会議だっただろうか、と寂しい気分。
学校では顔を見られたけれども、立ち話だって出来たのだけれど…。
(…学校じゃ、先生と生徒だから…)
恋人同士の会話はもちろん、前の生の思い出話も出来ない。
ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイ、その「生まれ変わり」なことは秘密だから。
本当に僅かな人間だけしか、「本当のこと」を知りはしないから。
(せっかく、生まれ変わって来たのにね…)
会えない日だって、うんと沢山、と零れる溜息。
同じ青い地球の上にいるのに、同じ町で暮らしているというのに。
(前のぼくたちなら、毎朝、色々、話をして…)
それからハーレイをブリッジに送り出していた。
「行って参ります」とハーレイが言う度、「うん」と頷いて。
出来れば早く戻って欲しいと、少し我儘を言ったりもして。
(今は、それさえ出来なくて…)
ハーレイの家も遠いんだから、と眺める窓のカーテンの方。
夜だから閉めているカーテン。
けれども、それが開いていたって、窓の向こうに「ハーレイの家」が見えることはない。
何ブロックも離れている家、此処からは屋根の欠片も見えない。
其処までの間に、何軒もの家が挟まって。
家の庭にある大きな木だとか、色々なものが邪魔をして。
(ホントに、前とは違いすぎるよ…)
青い地球には来られたのにね、と思ってはみても仕方ないこと。
二人で地球まで来られただけでも、もう充分に奇跡だから。
新しい命と身体を貰って、生まれ変わって来られただけでも。
本当だったら、何もかも「終わっていた」のだから。
メギドで「死んでしまった」時に。
右手に持っていたハーレイの温もり、それを落として失くしてしまって。
ハーレイとの絆が切れてしまったと、泣きじゃくりながら命を失った時に。
けれど、切れてはいなかった絆。
ハーレイと二人で地球に来られて、前の記憶も取り戻した。
これ以上を望みはしないけれども、贅沢を言っては駄目なのだけれど…。
(生まれ変わりなら、もっと絆が強くても…)
良かったのにね、と思いもする。
隣同士の家に住んでいるとか、赤ん坊の頃から知り合いだとか。
(今でも充分、絆はあるけど…)
偶然なんかじゃないんだけれど、と考える「生まれ変わり」ということ。
ありとあらゆる様々な要素、それを神様が組み上げた上で、今の二人を作ったろうと。
ハーレイも自分も、「今の身体」に生まれたろうと。
生まれ変わりというだけだったら、そういう言葉があるほどなのだし、きっとある。
こういう強い絆などは無くて、ただ「偶然」に過ぎないものが。
それこそ神様の悪戯のように、生まれ変わって「また出会う」人が。
(もしも偶然、生まれ変わった方だったら…)
今の自分は、この地球の上で、誰に出会っていたのだろう。
強い絆で結ばれたハーレイ、その人と出会うのでなかったら。
前の生で「知り合いだった誰か」に、もう一度、巡り会うのなら。
(…ジョミーじゃ、縁が薄すぎるよね…)
一緒にいた時間も長くない上、酷い苦労もさせてしまった後継者。
彼と出会っても、きっと話が盛り上がる前に、詫びを言うことになりそうな感じ。
「君を選んで済まなかった」と、ジョミーが「小さな子供」でも。
幼稚園に通っているような子でも、「ブルー?」とジョミーに呼ばれたなら。
自分の方でも、「ジョミー?」と気付いて、声を掛けたら。
(…幼稚園児に、ぼくがペコペコ謝って…)
「心から済まなく思っている」では、あんまりすぎる。
ジョミーよりかは、ゼルやヒルマンに出会いたい。
「なんだ、ブルーか?」と、「まだ若い」ゼルに、「チビになったな」とからかわれても。
同じように若いヒルマンに会って、「今は子供かね?」と微笑まれても。
あの二人ならば、きっと話が弾むから。
大人と子供の間柄でも、ゼルとヒルマン、どちらと地球で再会しても。
そういう出会いも楽しいかもね、と思ったけれど。
ゼルやヒルマンの家に招いて貰って、遊びに行くのも楽しそうだけれど…。
(でも、ハーレイ…)
話の中には「ハーレイ」が何度も出て来るだろうに、「いない」ハーレイ。
生まれ変わって来てはいなくて、「あいつは、いないな」とゼルやヒルマンが言うのだろう。
それは悲しいだろうと思う。
「どうして、ハーレイはいないんだろう」と、家で涙を零したりして。
(…君の代わりに、ゼルやヒルマンがいるなんて…)
ジョミーだったりするかもなんて、と考えただけで恐ろしい。
本当に「いて欲しい」人がいなくて、他の誰かと地球にいるなんて。
どれほど平和で素敵な地球でも、「ハーレイがいない」世界だなんて。
そうなるよりかは、今の世界がいいのだと思う。
ハーレイに会えない時があっても、ちゃんとハーレイは「いる」のだから。
今日は駄目でも明日があるのだし、明後日も、その先も、ずっとハーレイと一緒だから…。
君の代わりに・了
※ハーレイ先生の代わりに、他の誰かと生まれ変わって来ていたら、と考えたブルー君。
ジョミーだとお詫び、ゼルやヒルマンなら楽しそうでも…。ハーレイと一緒がいいですよねv
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