(…明日はテストで…)
今日は宿題も出てたんだよね、と小さなブルーが思うこと。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は来てくれなかったハーレイ、明日はどうなることだろう。
毎日だって会いたいけれども、世の中、上手くいかないもの。
週末はともかく、平日には。
ハーレイの仕事が休みでない日は、「会えない日」が続くこともある。
柔道部の指導が長引くだとか、放課後に会議が入るとか。
(明日のハーレイは、どうなんだろう…?)
気になるけれども、こればっかりは分からない。
ハーレイは、けして「予定」を話してくれはしないから。
学校の中で顔を合わせても、「今日は帰りに寄るからな」とは言ってくれない。
「予定通りに仕事が進むとは限らないから」が、その理由。
行けるから、と約束したのに駄目になったら、「お前のお母さんにも迷惑だしな?」と。
ハーレイが来た日は、夕食を用意するのが母。
「せっかくの支度が無駄になったら悪いだろう」と、ハーレイは平日の約束をしない。
夕食くらい、母なら何とでも出来るのに。
多めに作ってしまったのなら、次の日の食事に役立てもして。
(それに、ハーレイが遅い時間に来たって…)
夕食の支度が済んでいたって、母なら手早く追加で作る。
「いくらでも出来ますから、遅くても家にいらして下さい」と、母は何度も口にするのに…。
(…ハーレイ、絶対、来ないんだよね…)
夕食の用意に充分に間に合う時間しか。
それを過ぎたら、もう来ない。
今日だって、きっとそうだった。
柔道部の方か、会議があったか、いずれにしたって「遅くなった」時間。
この家に寄るには「遅すぎた」から、ハーレイは来ずに帰って行った。
前のハーレイのマントの色の、濃い緑色の愛車を運転して。
此処へは来ないで、自分の家へと真っ直ぐに。
そうでなければ、他の先生たちと食事に行ったか、そういう一日だったのだろう。
来なかった理由は分からないけれど、この家では会えなかったハーレイ。
明日もどうなるか、未来はまるで見えては来ない。
(…テストと宿題、ハーレイの授業じゃないんだよね…)
そっちだったら良かったのに、と思ってしまう。
古典の授業で出た宿題なら、いつだって、うんと張り切るもの。
「次回はテストをするからな」と言われた時にも、やはり同じに頑張る勉強。
ハーレイに成果を見せたくて。
「頑張ってるな」と褒めて欲しくて、人並み以上に。
(ぼくの成績なら、テスト勉強、しなくても…)
大丈夫だろうと思っていたって、ついつい熱が入る前日。
「明日の授業は、テストなんだよ」と、教科書やノートを机に広げて。
(…古典のテストでなくたって…)
やはり同じに重ねる努力。
クラスメイトは、「やらない」ことも多いのに。
宿題が出ていることも忘れて、帰ったら遊びほうけたりして。
もちろんテストがあるのも忘れて、酷い場合は、授業の直前になってから…。
(宿題も、テスト勉強も何もしていない、って…)
慌てふためいて、右往左往なクラスメイトたち。
「誰か、宿題をやってきた人は?」と辺りを見回し、やった人のを丸写し。
それではテストに間に合わないから、悲劇になるのは目に見えている。
教室の扉を開けて先生が「入って来た」途端に、あちこちで悲鳴。
「もう少しだけ待って下さい!」と、ノートや教科書を広げたままで。
あと五分だけあれば覚えられるだとか、「せめて三分、待って貰えませんか」とか。
(先生によっては、待ってくれることもあるけれど…)
大抵は無駄で、「始めるぞ」と片付けさせられてしまう教科書。
頼みの綱のノートにしたって、「早く仕舞え」と急かされるだけ。
「やってこなかった、お前たちが悪い」と睨まれて。
実際、宿題をやっていたなら、其処から問題が出るのだから。
テストの予告もされていたのだし、「やってこない生徒」が悪いに決まっているのだから。
(…ぼくは宿題も、テスト勉強も…)
下の学校の生徒の頃から、いつでも「きちんと」やっていた。
お蔭で今でも成績優秀、ハーレイにだって褒めて貰える。
「流石、お前だな」と、何かのはずみに。
他の先生のテストで「いい点数を取った」時にも、ハーレイに聞こえていたりもして。
(だから、ハーレイのテストでなくても…)
頑張らなくちゃ、と思うものだし、明日の分だって頑張った。
「ハーレイが寄ってくれたら、忘れちゃうしね?」と、早い時間から。
学校から帰って、おやつのケーキを食べたら、直ぐに。
(…ちゃんと宿題も、勉強もやって、待ってたのにな…)
ハーレイ、寄ってくれなかったよ、と残念な気分。
明日もどうだか分からないから、勉強の成果を「ハーレイに」見て欲しいのに。
宿題は「ハーレイに」提出したいし、ハーレイのテストを受けたいのに。
(だけど、全然、関係なくて…)
古典とは全く違う科目が、明日のテストと宿題の正体。
なんとも悔しい気持ちだけれども、宿題にしても、テストにしても…。
(…学校の生徒をやってるんだし、仕事みたいなものだよね?)
決められたことを「やってゆく」のも、「理解しているか」をテストされるのも。
仕事だからこそ、殆どの生徒が背中を向ける。
クラブ活動とかには、全力投球していても。
好きなサッカーなどのスポーツ、そっちだったら、どんな努力も厭わなくても。
(みんな、勉強って聞いた途端に…)
嫌そうな顔で、誰一人として喜びはしない。
「もっと宿題を出して下さい」と頼む生徒はいなくて、テストでも同じ。
これがクラブの活動だったら、「増やして下さい」と掛け合う生徒も多いのに。
学校が休みの期間でさえも、進んで登校するというのに。
(やっぱり、仕事は嫌がられるよね…)
少しも楽しくないんだろうし、と思い浮かべるクラスメイトたちの顔。
クラブ活動なら、厳しい練習が続いていたって、皆、喜んで取り組むもの。
それはクラブが「楽しいから」で、「好きなこと」が出来る時間だから。
柔道部にしても、サッカーなどにしても、傍から見たなら「大変そう」。
けれど「仕事」の「勉強」よりかは、遥かに楽しいものらしい。
宿題やテストは忘れていたって、クラブを忘れる生徒はいない。
「今日は部活だ」と張り切っていたり、遠征試合に向けて毎日頑張っていたり。
(…勉強は嫌われているんだけどな…)
ぼくには、これしか無いみたい、と考え込む。
クラブ活動をしていないからには、学校でするのは「勉強」だけ。
つまりは「仕事をしに行く」わけで、家に帰っても、同じに「仕事」。
今日のように宿題に取り組んでいたり、テスト勉強を頑張ったりと、色々と。
(…ぼくには、仕事しか無いけれど…)
別に勉強は嫌いじゃないし、と「勉強嫌いでなくて良かった」とホッとする。
もしも「勉強嫌い」だったら、どんなにつまらなかっただろう。
「学校に行く」ということが。
宿題が出たり、テストがあったりすることが。
(…ハーレイが先生をしてたって…)
きっとやっぱり、宿題もテストも、苦手だったに違いない。
ハーレイが家に来てくれる度に、せっせと頼んでいたかもしれない。
「今日の宿題、出来てないんだよ」と、「提出期限をもっと延ばして」と。
そうでなければ、ハーレイにペコリと頭を下げていたろうか。
「ぼくの代わりに、宿題をやって欲しいんだけど」と、その宿題を出したハーレイに。
テストをすると言われたのなら、「山を教えて」と強請るとか。
「このままだったら、ぼくは零点になっちゃうよ」と、切実な顔で。
本当に零点を取りそうなだけに、ハーレイの前で土下座までして。
「ぼくに零点、取らせたいの?」と、涙ぐみさえするかもしれない。
恋人に恥をかかせたいのかと、泣き落としで。
(……うーん……)
なんという情けない光景だろうか、と想像してみて零れた溜息。
訪ねて来てくれたハーレイと二人で過ごす時間に、土下座で「お願い」。
テストの山を教えてくれとか、「代わりに宿題をやって欲しい」だとか。
(…そうならなくて良かったよね…)
きっと百年の恋も冷めるに違いない、と思ってしまう。
生徒の仕事は「勉強」なのに、それを「やらない」恋人なんて。
ハーレイは教師で、今の自分は「勉強の成果」を見て貰う方の立場なのに。
(…前のぼくの仕事は、ソルジャーで…)
白いシャングリラの仲間の命を、懸命に守ることだったけれど。
それに比べれば勉強なんかは、「仕事」の内にも入らないのだけれど…。
(…今のぼくの仕事も、うんと大事で…)
やらなかったら、ハーレイの前で大恥をかいて、恋もおしまいになりそうな感じ。
「また勉強をやってないのか」と、「お前の土下座は何度目なんだ?」と呆れられて。
だから「仕事」は、きちんとしよう。
ハーレイのテストや、ハーレイが出した宿題などとは違っても。
生徒の間は、「勉強すること」が仕事だから。
ハーレイに呆れられたくなければ、今の仕事も、きちんとやるのが大切だから…。
今のぼくの仕事・了
※ハーレイが出した宿題じゃないよ、とブルー君が残念に思ったこと。テスト勉強も。
けれども、今のブルー君の仕事は「勉強」。ハーレイ先生の前で大恥は困りますよねv
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