「んーと…。ハーレイ?」
今日のも美味しい? と小さなブルーが傾げた首。
ハーレイと二人、向かい合わせに座ったブルーの部屋のテーブル。
休日とあって、ハーレイは午前中から訪ねて来ている。
今はのんびり午後のお茶の時間、皿の上にはパウンドケーキ。
ブルーの母が焼き上げるそれは、ハーレイの母が作る味に似ている。
つまり、いわゆる「おふくろの味」。
ブルーの母も知っているから、こうして出てくる日も多い。
ハーレイはケーキをフォークで切っては、口に運んでいるけれど…。
「うむ。本当に、おふくろが焼いて持って来たような味だしな」
実に美味い、と綻ばせる顔。
ブルーも「良かった…」と笑みを浮かべた。
「ママに頼んでおいたんだよ。今日はパウンドケーキがいい、って」
「ほほう…。そいつは嬉しい話だが…」
御褒美の類は出ないからな、とハーレイはブルーを軽く睨んでやる。
とんでもない「御褒美」を貰いたがるのが、ブルーなだけに。
十四歳にしかならない子供のくせに、ブルーはキスを欲しがる。
何かと言えば「ぼくにキスして」だの、「キスしてもいいよ?」。
そんな具合だから、あまり御褒美をやりたくはない。
パウンドケーキが如何に美味しくても、心の底から嬉しくても。
ブルーは「分かっているってば」と渋々、頷いた。
「ハーレイがケチなの、分かってるしね。でも…」
そっちのケーキも美味しいのかな、と赤い瞳が見詰める皿。
ハーレイの前に置かれたもの。
「おいおい、そっちと言われても…。同じだろうが」
お前のヤツと、とハーレイもブルーの皿に目を遣る。
どちらの皿にもパウンドケーキで、別のケーキが載ってはいない。
「そうなんだけど…。ママのケーキには違いないんだけれど…」
でも、とブルーは瞳を瞬かせた。
「オーブンの加減で変わるんでしょ?」と、ケーキについて。
火の当たり具合で味が変わってくる筈だけど、と。
言われてみれば…、とハーレイは顎に手を当てる。
前の生では、キャプテンの前は厨房で料理をしていたもの。
今は気ままな一人暮らしで、料理もすれば、菓子を作りもする。
オーブン料理は、確かにブルーが言う通りだった。
同じように中に並べてみたって、当たり外れが出来ることだって。
「なるほどな…。味が違うかもしれない、と思っているんだな?」
「そう! ハーレイのお皿のと、ぼくのとではね」
ちょっぴり味見してもいいかな、とブルーが尋ねる。
同じ味なのか、それとも違うものなのか。
「それはまあ…。興味を持つのはいいことではある」
遠慮なく、俺のケーキを食え、とハーレイは皿を差し出したけれど。
「えっとね…。それ、食べさせてくれないかな?」
「はあ?」
「だから、ハーレイのフォークで刺して! ぼくに頂戴!」
あーん、とブルーが口を開けたから、ハーレイは皿を引っ込めた。
「食わせてやらん!」と、「なにが「あーん」だ!」と。
ブルーの狙いは、よく分かったから。
目当てはケーキの味とは違って、食べさせて貰うことなのだから…。
それ、美味しい?・了
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