「…どうした、ブルー?」
妙に元気が無いようだが、と尋ねたハーレイ。
今日は休日、ブルーの家に来たのだけれども、元気が無いブルー。
いつもだったら、弾けるような笑顔なのに。
テーブルを挟んで向かい合うだけで、ブルーは御機嫌な筈なのに。
それに、ブルーは身体が弱い。
無理をして「起きている」のだったら、それは良くない。
早めにベッドに押し込まないと、熱を出したりしかねない。
そう思ったから、「どうした?」とハーレイは訊いたのだけれど。
「……昨日から、痛くて……」
今も痛い、とブルーが言うから、もう大慌てで問い掛けた。
「何処だ、お腹が痛いのか? それとも、頭か?」
「……口の中……」
頬っぺたの内側がとても痛い、と小さなブルーが指差した口。
「昨日の夜から痛いんだよ」と、「何か食べると、もっと痛い」と。
(……うーむ……)
多分、口内炎だろうな、とハーレイが思う、ブルーの症状。
あれは確かに「痛い」もの。
柔道や水泳で鍛えたハーレイだって、たまに出来たら痛くはある。
(俺の場合は、滅多に出来んが…)
ブルーと違って丈夫なのだし、口内炎などは「そうそう出来ない」。
何かのはずみに、頬の内側でもウッカリ「噛んだ」時でもなければ。
(それでも、出来にくいんだがな…)
普通は「噛んだ」だけで出来ると聞くから、出来にくい体質。
頑丈な身体は、そう簡単には「やられない」ということだろう。
けれどブルーは虚弱なのだし、口内炎なども出来やすい感じ。
おまけに「出来たら」、治りも遅いに違いない。
そう思ったから、「見せてみろ」と覗いた、ブルーの口の中。
椅子から立って、テーブルの向こうに回り込んで。
案の定、「あった」口内炎。
ブルーが自分で治療しようにも、薬が塗りにくそうな場所。
(…塗ってやるとするか)
そのくらいのことは…、とブルーに取って来させた口内炎の薬。
「口を大きく開けてろよ? よし、そのままだ」
動くんじゃないぞ、と綿棒で口内炎の上を拭って、お次は薬。
しっかりと塗ると、「もういいぞ」と口を閉じさせた。
後は薬がよく効くように、三十分ほどは飲食禁止といった所か。
「ありがとう、ハーレイ…」
ブルーも嬉しそうな顔だし、「お安い御用だ」と微笑んだ。
「口内炎の薬くらい、いつでも塗ってやる。任せておけ」
「本当に?」
「もちろんだ。口内炎は痛いものだしな」
俺だって、出来た時には痛い、と顔を顰めてみせたハーレイ。
「鍛えた俺でも痛いんだから、チビのお前は尚更だろう」と。
そうして「次も塗ってやるぞ」と、ハーレイは約束したのだけれど。
「じゃあ、お願い。…頑張らなくちゃ」
「はあ?」
「口内炎の薬、ハーレイが塗ってくれるんでしょ?」
次は唇に出来るように頑張る、とブルーはニコリと微笑んだ。
「口の中もいいけど、唇の方がもっと嬉しい」と花が綻ぶように。
(……なんだって!?)
さては、こいつ…、とハーレイはブルーを睨み付けた。
もう間違いなく「よからぬこと」を考えていたのだろう、ブルー。
綿棒で口の中を拭った時にも、薬を塗っていた時も。
「馬鹿野郎!」
唇くらいは自分で塗れ、とハーレイはブルーを叱り付ける。
「其処は自分で塗れる筈だ」と、「口の中とは違うからな!」と。
ついでに「二度と塗ってはやらん」と、眉間に深い皺まで。
口内炎は可哀相だと思うけれども、余計な連想はして欲しくない。
何かと言ったら「ぼくにキスして」が、ブルーの口癖。
そんなブルーに口内炎の薬なんかは、藪蛇でしかなさそうだから…。
痛いんだけど・了