(砂糖菓子なあ…)
あれも悪くはないんだよな、とハーレイが唇に浮かべた笑み。
ブルーの家には寄れなかった日、夜の書斎でコーヒー片手に。
(コーヒーに砂糖を入れるかどうかは…)
その日の気分次第なんだが、とキッチンでのことを思い返してみる。
いつものようにコーヒーを淹れて、どうしようかと考えた砂糖。
今日は入れるか、入れずに飲むかと、「今日の気分」を。
「入れたい気分」だった今日。
だから砂糖を取り出そうとして、其処で迷った。
「どれを入れる?」と、砂糖のことで。
この家で長く一人暮らしだし、料理をするのも好きではある。
料理好きなら揃えておきたい砂糖が色々、「コーヒー用の」砂糖以外にも。
グラニュー糖なら、料理にも菓子にも、コーヒーにも良し。
少し癖のあるザラメも案外、コーヒーに合う。
(どれにするかで迷っちまって…)
いつものでいいか、と選んだ角砂糖。
これなら好みで「ピッタリの量」を入れられる。
「お砂糖の量はどれだけですか?」などと問われるのも、多分、これが多いだろう。
(スプーンに何杯、っていうヤツもあるが…)
あっちはスプーンで計っているだけに、個人の癖が出そうではある。
「一杯分でお願いします」と頼んだ一杯、それが「山盛り」とか「少なめ」だとか。
それを思えば、角砂糖の方が「大いに便利」。
一個の量は決まっているし…、とポチャンと入れて、この書斎へとやって来た。
夜にコーヒーを飲むなら書斎が多いし、「今夜も此処だ」と。
角砂糖を溶かしたコーヒーを傾け、ふと思ったこと。
「角砂糖だって、色々じゃないか」と、「塊になった砂糖」のことを。
コーヒーなどに「ポチャンと」入れてやる砂糖。
四角ばかりとは限らなかった、と様々な形を思い浮かべて。
塊でコーヒーに入れる砂糖も、気まぐれな量のものがある。
少しいびつになった塊、あれならば塊の大きさによって量だって変わる。
(小さいのもあれば、大きいのもあるし…)
同じ「一個」でも違うもんだな、と思う「その手の砂糖」。
そうかと思えば、薔薇の花などの形をしている砂糖なんかも。
其処から頭に「砂糖細工」と、ポンと浮かんで来た言葉。
(砂糖細工がくっついている角砂糖ってヤツも…)
あるんだよな、と可愛らしいのを思い出したから。
角砂糖の白い塊の上に、砂糖細工の小さな花などがくっついた、それ。
せっかくの「とても繊細な細工」は、コーヒーに溶けてしまうのに。
紅茶に入れても同じに溶けて、楽しむことは出来ないのに。
(ちょいと贅沢な砂糖ってことか…)
値段も高めになるモンだしな、と愛用のマグカップを傾ける。
「こいつに入れるには、上等すぎる砂糖ってモンだ」と。
ああいう角砂糖を入れてやるなら、もっと高級なカップが似合い。
ついでに「一人で」飲んでいるより、来客の時。
(…柔道部のヤツらじゃ、話にならんが…)
あいつらに出しても猫に小判だ、と考えるまでもなく分かること。
「豚に真珠」とも言うだろう。
柔道部員の教え子たちには、クッキーでさえも「徳用袋」が丁度いい。
上品に形が揃ったものより、割れたり欠けたりしているクッキー。
要は「量さえあればいい」わけで、砂糖にしても全く同じ。
(…角砂糖さえも要らないかもな?)
グラニュー糖もな、と浮かべる苦笑い。
「安売りの砂糖で充分だろう」と、料理用の砂糖を思い描いて。
食料品店のチラシなんかで、よく「お買い得」と書かれていたりする砂糖。
それをスプーンで「どれだけだ?」と入れてやっても、彼らは気にもしない筈。
ちゃんと「甘くなって」いたならば。
間違えて塩を、ドカンと入れさえしなければ。
柔道部員たちに出してやるには、上等に過ぎる角砂糖。
砂糖細工がくっついたもの。
(そういう砂糖を出してやるなら…)
いつかブルーが来た時だよな、と愛おしい人を思い浮かべる。
十四歳にしかならない恋人、前の生から愛した人。
今は「この家には」呼んでやれないブルー。
前のブルーと同じ背丈に育つ時まで、家には呼ばない。
そう決めて約束させたからには、まだまだ当分、来はしない人。
(あいつが此処にやって来る時は…)
張り切って準備することだろう。
何の料理を出せばいいかと、何日も前から考えて。
「これだ」と決めたメニューによっては、前日よりも前から仕込みもして。
食事だけで帰す筈もないから、菓子だってちゃんと用意する。
手作りにするか、「とびきり上等な」評判の菓子を買いに行くかと、迷うのだろう。
どちらに決めても、欠かせないのが紅茶になる。
ブルーは「コーヒーが苦手」なのだし、美味しい紅茶を淹れなければ。
(でもって、砂糖を入れるんだから…)
砂糖細工がくっついたような、高級品の角砂糖がいい。
ただの角砂糖よりは、断然、そっち。
(なにしろ、二人きりだしな?)
ブルーを招いて「家でのデート」、そういった特別な日なのだから。
何度招いても、きっと飽きたりすることはない。
「明日はブルーが来る日だからな」と、心躍らせる未来の自分が見えるよう。
何を出そうか、料理は、菓子は…、とメモだって書いてゆくかもしれない。
「この菓子は前に出しちまったから…」と、重ならないよう、気を配るために。
料理も同じで、「前とおんなじ…」とブルーが思わないように。
そんな「特別な人」を呼ぶなら、角砂糖も、素敵で特別なものを。
くっついている砂糖細工は、紅茶に溶けてしまっても。
ブルーが「綺麗だよね」と眺めてくれても、ポチャンと紅茶に落とせば、消えてしまっても。
(あいつのためなら、惜しいとは全く思わんな…)
柔道部員のヤツらには、もったいなくて出せないんだが…、と思う上等な角砂糖。
砂糖細工で小さな花などが描かれたもの。
招いた客がブルーだったら、そういう砂糖を惜しげもなく入れてやるのだろう。
「砂糖は幾つだ?」と尋ねて、返った答えの分だけ。
たとえ「五つ」と言われようとも、「六つかな?」などと笑みが返っても。
(…普通は二つくらいなモンだが…)
普段のあいつも、そのくらいだが…、と小さなブルーの好みを思う。
甘い飲み物が好きだけれども、流石に砂糖が「五つ」や「六つ」ほどではない。
けれども、ブルーが望むのだったら、砂糖細工がついた角砂糖を十個でも。
(百個と言われても、かまわんな…)
そう思ってから、「いや、カップから溢れるか…」とクックッと笑う。
それだけ入れたら、紅茶は溢れて、カップの中には砂糖だけ。
カップの中には入り切らずに、こんもりと盛り上がったりもして。
(だが、あいつになら…)
あいつとだったら、そんな時間も最高なんだ、と思えてくるから愛おしい。
たとえカップから紅茶が溢れて、砂糖が山と積み上がっても。
砂糖細工がくっついている角砂糖を見て、ブルーが「百個!」と注文しても。
(…あいつと過ごす時間ってヤツは…)
きっと甘いに決まっているから、砂糖菓子のような時間だろう。
砂糖菓子のように甘い時間を過ごすのだったら、角砂糖の山も似合う筈。
紅茶が溢れるほどの量でも、二人で眺めて笑い合って。
「百個は多すぎたみたいだよね」と、ブルーが肩を竦めたりもして。
(…食べ物で遊ぶのは、良くないんだが…)
ちょいとやってみたい気にもなるよな、と思えてしまう、遠い未来に「ブルーが来た日」。
砂糖細工がくっついた角砂糖を沢山、用意しておいて。
「砂糖は幾つだ?」とブルーに訊いたら、「二つ」と答えが返ったとしても…。
(俺たちには、これが似合いだろう、と…)
何処までカップに砂糖が入るか、一つずつ入れていくのもいい。
砂糖菓子のように甘い時間に似合いの砂糖は、幾つなのかと。
一つ、二つとポチャンと入れては、まるで溶けなくなる所まで。
もうそれ以上は甘く出来ない、そんな量の砂糖を落とし込むまで。
(二十個くらいは溶けるモンかな…)
凄い甘さの紅茶だろうな、と思うけれども、そんな「甘すぎる」紅茶もいい。
砂糖菓子のように甘い時間を過ごしてゆくなら、砂糖さえも溶けてくれない甘い紅茶も…。
砂糖菓子のように・了
※ブルー君と過ごすんだったら、砂糖の量は「溶けなくなるほど」なハーレイ先生。
まさか本気でやることはないでしょうけれど…。そういう甘い紅茶が似合いの時間ですv
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