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左手をお願い

「えっとね、ハーレイ…」
 一つお願いがあるんだけれど、と小首を傾げたブルー。
 テーブルを挟んで向かい合わせで、それは愛らしく。
「お願いなあ…。お前の場合は、厄介なことを言い出すからな?」
 頼まれてもキスはしてやらないぞ、とハーレイは先に釘を刺した。
 何かと言ったら「ぼくにキスして」が、ブルーの頼み事だから。
「そうじゃないってば、今日は左手」
「…左手だって?」
 なんでまた、とハーレイが眺めたブルーの左手。
 右手だったら、よく「温めてよ」と差し出される。
 前のブルーの生の最後に、冷たく凍えてしまった右手。
 撃たれた痛みで「ハーレイの温もり」を失くしたとかで。
(だが、左手は…)
 何の話も聞いてはいないし、今、見ても普通。
 ささくれが出来て痛そうでもなければ、怪我もしていない。


 だからハーレイは問い掛けた。
「左手って…。お前の左手がどうかしたのか?」
 そっちも凍えちまったのか、と尋ねたら「うん」と返った答え。
「ちょっぴり冷えたみたいだから…。温めてくれる?」
 右手みたいに、という注文。
 そのくらいだったら、お安い御用。
 何処で冷えたのかは謎だけれども、温もりならばケチらない。
「…こうか?」
 こんな具合か、と両手で包んだブルーの左手。
 テーブルの上で、優しく、そっと。
 ブルーは暫く、うっとりと目を閉じていたのだけれど…。


 ちょっと注文していいかな、と赤い瞳がパチリと開いた。
「ハーレイの手、とても暖かいんだけど…。もうちょっと…」
「強く握れとでも言うのか?」
 俺の体温はこれ以上、上がらないからな、と大真面目に言った。
 「もっと温めて」と注文されても、手が熱くなりはしないから。
「ううん、そうじゃなくて…。この手…」
 こっちの手だよ、とブルーの右手が指した、ハーレイの右手。
 ブルーの左手を上から覆っている方の手。
「なんだ、俺の右手がどうだと言うんだ?」
「この手で薬指をお願い」
「薬指?」
 まるで分からん、とハーレイは首を捻った。
 薬指をどう「お願いしたい」とブルーは思っているのだろう?
「んーとね…。そっとつまんで欲しくて…」
 薬指の先を、とブルーは瞳を瞬かせた。
 そしてつまんだら、その指を付け根まで持って行って、と。


「はあ…?」
 なんだそりゃ、と訝りながらも、ハーレイは指をつまんでみた。
 左手でブルーの手を支えたまま、右手で薬指をつまんで…。
(おい、ちょっと待て!)
 この指は…、と気付いたブルーの薬指。
 それは左手の薬指だし、つまんだ指を付け根まで運ぶ動きなら…。
(指輪を嵌めるみたいじゃないか!)
 婚約指輪だの、結婚指輪だのというヤツを…、とピンと来た。
 早い話が、チビのブルーが企んでいるものは…。
(婚約ごっこか、結婚ごっこの類なんだな!?)
 間違いないぞ、と見抜いたからには叱らねば。
「…俺に指輪を嵌めろってか?」
「そう! 婚約指輪でも、結婚指輪でもいいから、お願い!」
 気分だけでも、ぼくに嵌めてよ、と小さなブルーが輝かせた瞳。
 「流石、ハーレイ!」と、「早くお願い」と。
「馬鹿野郎!」
 お前にはまだ早すぎだ、とピシャリと叩いてやった左手。
 「誰が指輪を嵌めてやるか」と、「お仕置きの方が似合いだ」と…。




        左手をお願い・了









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