「えっと…。ハーレイ、ちょっと訊いてもいい?」
知りたいことがあるんだけれど、と言い出したブルー。
休日の午後に、ブルーの部屋でお茶の時間の最中に。
「なんだ、どうした?」
質問だったら受け付けるぞ、とハーレイは笑顔。
今日は学校は無い日だけれども、ハーレイの仕事は古典の教師。
答えてやれる範囲のことなら、幾らでも、と。
「ありがとう! でもね…」
古典の授業は関係なくて、とブルーは首を小さく傾げた。
「ハーレイの懐具合はどう?」と。
「俺の懐具合だと?」
「そうなんだけど…。本当のことが知りたいな」
誤魔化さないで、とブルーの赤い瞳が真っ直ぐ見詰める。
ハーレイの鳶色の瞳の奥を。
(俺の懐具合だって…?)
なんでまた、とハーレイにすれば青天の霹靂。
無駄遣いをするタイプではないし、財布の中身は寂しくはない。
けれども、ブルーはどうしてそれを知りたいのか。
(何かプレゼントでも寄越せってか?)
こいつだしな、と目の前のブルーをまじまじと見た。
小遣いに不自由はなさそうだけれど、チビのブルーは恋人気取り。
それも「一人前の」と前につく。
恋人用のプレゼントが欲しいと言うのだろうか…?
(その手のヤツだと、値が張るモンで…)
クッキーなどのようにはいかない。
ブルーの狙いがそれだったならば、懐具合も大切だろう。
(しかしだな…)
此処で「懐具合」を下手に明かしたら、強請られる。
ブルーのお目当てだろう「何か」を。
そう思ったから…。
ゴホン、と一つ咳払いをして、こう告げた。
「実は、ちょっぴり苦しくてな…」
恥ずかしいんだが、余裕が無い、と口から出まかせ。
本当はちゃんと余裕があるのに、まるで大赤字であるかのように。
そうしたら…。
「やっぱりね…。そうじゃないかと思ってたけど」
ハーレイだから、と頷くブルー。いとも素直に。
(ちょっと待て…!)
俺は無計画に使いそうなのか、とハーレイにすれば大ショック。
「ブルーの目にはそう見えるのか」と、「いつも赤字か?」と。
それはあまりに不名誉だから、慌てて訂正することにした。
「今のは嘘だ」と。
「いや、本当の所はだな…」
懐にはたっぷり余裕がある、と述べた「真実」。
ちょっとやそっとで困りはしないし、心配するな、と。
「もちろん、未来のお前だって」と、「結婚費用も安心だぞ」と。
任せておけ、とドンと胸を叩いた。
「俺の懐なら、大丈夫だ。お前は何も心配要らんぞ」
「本当に? でも…。ハーレイ、そうは見えないけれど…」
嘘じゃないの、とブルーが瞳を瞬かせるから。
「お前なあ…。確かめたいのか、俺の懐?」
「うんっ!」
そう言われては仕方ない。財布を出して…。
「いいか、あんまり見せるもんではないんだが…」
「違うよ、ハーレイの懐の深さ!」
大丈夫ならキスをちょうだい、とチビのブルーは生意気な台詞。
懐具合に自信があるなら、キスも許してくれるんでしょ、と。
「馬鹿野郎!」
そっちの懐は狭いんだ、とコツンと叩いたブルーの頭。
「懐が苦しくて悪かったな」と、「俺は万年、大赤字だ」と…。
懐具合・了