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逆様だったら

(今は文字通りにチビなんだよなあ…)
 本当にチビになっちまった、とハーレイが思い浮かべた恋人。
 ブルーの家には寄れなかった日、夜の書斎でコーヒー片手に。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
 ブルーは帰って来てくれたけれど、十四歳にしかならない子供。
(前のあいつも、出会った時にはチビだったんだが…)
 見た目も中身もチビだったが、と思うけれども、前のブルーは前の自分よりも遥かに年上。
 アルタミラの檻で暮らす間に成長を止めていたというだけ。
(あいつが生まれた年を聞いたら、俺が生まれるよりも昔の話で…)
 とても驚いたブルーの生まれ。「こいつ、年上だったのか」と。
 けれどブルーは心も身体も子供だったし、皆がそのように扱った。
 成人検査を受けた時のままで止まった成長、心も身体もしっかり育ててやらねば、と。
(そうして大きく育ったわけで…)
 美しく気高く育ったブルーは、今の時代も高い人気を誇っている。その美貌で。
 本屋に行ったら、ソルジャー・ブルーの写真集が幾つも並ぶくらいに。
(あの姿のあいつに会えるまでには、まだまだかかるぞ)
 年単位でな、と分かっているから、けして焦りも急かしもしない。
 前のブルーは子供時代の記憶を失くして、何も覚えていなかったから。
 養父母も育った家も忘れて、そのまま戻りはしなかった記憶。
 前のブルーが失くした子供時代の分まで、今のブルーには幸せに生きて欲しいと思う。
 子供らしい日々を、我儘たっぷりに。
(ちょいと我儘が過ぎる時も多いが…)
 強請られてもキスは駄目だからな、と膨れっ面のブルーを頭に描いた。
 何かと言えば「ぼくにキスして」と強請るのがブルー、何度「駄目だ」と叱っても。
 叱り付ける度に膨れっ面になって、「ハーレイのケチ!」と尖らせる唇。
 我儘の最たるものだけれども、そんなブルーも愛おしい。
 「今はチビだな」と思うわけだし、子供ならではの我儘だから。


 すっかりチビになった恋人、今の自分よりも遥かに年下。
 こちらは今は三十八歳、ブルーはたったの十四歳。
(見た目通りの年の差だよなあ…)
 ブルーに出会って「年を取るのをやめにした」から、三十八歳くらいの姿の自分。
 上手い具合に、前の自分と丁度そっくり同じ顔立ち。
(あいつは今から育っていくから、年の差は縮んでいくんだが…)
 俺の方が二十歳以上も年上だってか、と思った所でハタと気付いた。
 前の自分とブルーとの差は、それどころではなかったような、と。
 シャングリラで暮らした誰よりも早く、寿命を迎えてしまったブルー。
 病死した仲間もいたのだけれども、ブルーの寿命はそれとは違った。
 長い年月を生きた肉体、それが限界を迎えただけ。…病気などとは無関係に。
(…あいつが弱り始めた時にも、前の俺はピンピンしていたし…)
 ゼルもヒルマンも実に元気で、誰も迎えていなかった寿命。肉体が衰え、滅びゆく時。
 けれどブルーの身体は弱って、消えかかっていた命の灯。
 そのくらいにブルーは皆より年上、前の自分よりもずっと年上。
 今でこそ、チビに生まれたけれど。
 姿そのままにチビの子供で、十四歳にしかならないけれど。
(年だけだったら、前とは逆になっちまうのか…)
 俺の方が年上なんだから、と「見た目通りの年の差」を本当に嬉しく思う。
 今度こそブルーを守ってやれるし、名実ともに保護者の立場になれるのだから。
 いつかブルーと結婚したって、保護者は自分。ブルーを守ってやるべき夫。
(あいつは俺の嫁さんだしな?)
 誰が見たって俺が保護者だ、と言い切れるけれど、そのブルー。
 年下に生まれた今のブルーが、前と同じに年上だったら、どうなっていたか。
 前ほどの差は無かったとしても、今の自分と逆だったなら、と。
(俺とブルーが逆様だったら…)
 前の通りに生まれていたなら、ブルーの方が年上になる。
 年の差をすっかり逆にするなら、出会った時にブルーが三十七歳ということで…。
 俺が十四歳になるのか、と見開いた瞳。「とんでもないぞ」と。


 もしもブルーが年上だったら、出会いからして違ってきそう。
 教師と教え子として出会ったけれども、それをそのまま使うなら…。
(俺が十四歳で、ある日、教室に座っていたら…)
 新しく赴任して来た教師のブルーが、その教室に入って来る。
 何の教師かは謎だけれども、教科書や出席簿を持って。教室の扉を静かに開けて。
(でもって、俺を見付けた途端に…)
 ブルーが倒れてしまうのだろうか、右の瞳や両肩などから出血して。
 チビのブルーと全く同じに、聖痕現象を引き起こして。
(…それで記憶が戻ってもだな…)
 どうすりゃいいんだ、と途方に暮れる。
 まるでその場に居合わせたように。十四歳の自分がブルーと出会ってしまったように。
(俺の方は記憶が戻るだけだが…)
 教師のブルーは倒れてしまって、酷い騒ぎになるだろう教室。
 保健委員の生徒がいたって、指図すべき教師が床に倒れているのでは。
(…俺が保健委員ってことは無いからな…)
 その手の委員は引き受けていない。もっと活動的な役目ばかりをしていたから。
 つまり自分の出番ではなくて、「俺が先生を呼んで来る!」とは言えない立場。
(救急隊員がやって来たって…)
 生徒の自分は救急車に一緒に乗れはしないし、運ばれてゆくブルーを見送るだけ。
 思い出した膨大な記憶を抱えて、ブルーへの想いと心配と不安を抱え込んで。
(ブルー先生はどうなったんですか、と訊きに行こうにも…)
 休み時間まで待つしかなくて、「無事だ」と教えて貰っても…。
(学校が終わって、放課後になるまで…)
 見舞いに行くことも出来ない始末で、しかも放課後は部活の時間。
 水泳にしても、柔道にしても、日々の練習が欠かせない。
 終わってから病院に出掛けて行っても、ブルーは退院した後だろう。
 聖痕は身体に傷を残さないし、ショックで倒れただけのこと。
 落ち着いたと分かれば、大人のブルーは直ぐに退院。小さなブルーの時と違って。
 きっと家へと帰ってしまって、もう病院のベッドにはいない。大急ぎで辿り着いたって。


(そうなってくると…)
 ブルーの家に行くしかないのだけれども、十四歳にしかならない自分。
 あまり帰宅が遅くなったら、家で心配するだろう両親。
(通信を入れて、遅くなるから、と言うにしたって…)
 そうやってブルーの家に行っても、何の役にも立たない自分。
 ブルーと昔話は出来ても、聖痕現象で疲れただろうブルーのためには何も出来ない。
 看病はもちろん、キッチンを借りて何か料理を作りたくても…。
(ブルーが困るだけだよな?)
 前の自分たちのことはともかく、今は教師と教え子の二人。
 見舞いに来てくれた学校の生徒に、食事を作らせるなど言語道断。
(あいつがベッドで寝込んでたって…)
 サッと着替えて起きて出て来て、家に迎え入れてくれるのだろう。
 「もうすぐ夕食の時間になるから、食べて行くかい?」と優しい笑顔で。
 そしてキッチンで夕食の支度を始めるブルー。
 「前の君ほど、料理は上手くないんだけどね」と、苦笑しながら二人分を。
 出来上がったら「どうぞ」と呼ばれる食卓、食器などもきちんと並べてくれて。
(うーむ…)
 感動の再会はどうなったんだ、と頭を抱えたい気分。
 ブルーが外見の年を止めていたって、中身はとうに三十七歳。
 もう充分に大人なのだし、十四歳の「ハーレイ」を前にしたって冷静だろう。
(…「ただいま、ハーレイ」も、「帰って来たよ」も無いってか?)
 小さなブルーはそう言ったけれど、教師のブルーは言いそうにない。
 遠い昔に「ソルジャー・ブルー」だった頃のように、ふわりと笑んで…。
(また会えたね、とか、「久しぶりだね」とか…)
 それから右手を差し出すだろうか、握手しようと。
 前の生の最後に凍えた右手に、また温もりを戻そうとして。
 「キースに撃たれた」ことは言わずに、何気ないふりで、ごく自然に。
 子供の姿になった恋人、教え子の恋人に心配などはかけられない。
 きっとブルーならそうするのだろう、悲しすぎた前のブルーの最期を秘密にして。


 それでは駄目だ、と振った首。
 今のブルーを守るどころか、逆に気を遣わせる「子供の自分」。
 もしも逆様になっていたなら、そういう展開。
 ブルーの方が年上だったら、自分が年下だったなら。
(俺が今と同じくらいの年に育ってたって…)
 ブルーが若い日の姿を保っていたって、きっと成長している心。
 年上として生きた年の分だけ、早く生まれて来た分だけ。
(…俺があいつを守ると言っても、噛み合わないぞ…)
 色々な所でズレちまうんだ、と分かるから「今」に感謝する。
 チビのブルーが「年下」に生まれて来たことに。…自分よりも遥かに幼いことに。
 これが逆様だったとしたなら、とてもブルーを守れないから。
 「逆様だったら厄介だよな」と、「我儘なチビでも、年下のブルーで良かったんだ」と…。

 

          逆様だったら・了


※ブルー君との年の差が逆様になっていたら、と思ったハーレイ先生。年上になったブルー君。
 前の生では本当に年上だったんですけど、今だと少し困ったことになりそう。年下が一番v







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