「ねえ、ハーレイ。…鍛えるのは好き?」
いつも運動しているよね、と小さなブルーがぶつけた質問。
休日の午後に、ブルーの部屋で二人きりの時間に。
「それはまあ…。好きと言うより、性分だな」
鍛えないと身体がなまっちまう、と答えたハーレイ。
柔道にしても水泳にしても、基礎になるのは自分の肉体。
どんなに優れた技を身に付けても、身体が衰えれば使えなくなる。
手足はもちろん、全身をきちんと常に鍛えておかないと。
「…それでジョギングしているの?」
お休みの日にも走るんだよね、とブルーは興味津々だから。
「あれが一番、手軽だな。思い立った時に走れるだろう?」
ジムに出掛けて泳ぐのもいいが、いつでも開いてるわけじゃない。
その点、ジョギングは時間もコースも、俺の都合で好きに出来るし。
朝早くてまだ暗い内でも、夜遅くでも走れるもんだ、と話してやる。
そういう時間に走っていたって、同好の士に出会えると。
「本当だぞ? お前がグッスリ眠っているような時間でも、だ…」
ジョギング好きの人にとっては、立派に活動時間だってな。
せっせと走って身体を鍛える、そのために何人も走っているぞ。
街灯が灯っている時間でも、と教えてやった。
「俺もその中の一人だよな」と。
ブルーは「ふうん…」と感心しきりで、「凄いね」と笑顔。
「ハーレイ、頑張ってるんだね」と。
体力が落ちてしまわないよう、いつも鍛えている身体。
そうやって鍛え続けていたなら、もっともっと強くなれるの、と。
「どうなの、ハーレイ? もっと強くなれる?」
「決まってるだろう、弱くなることは有り得んな」
鍛えてやれば、と大きく頷く。
身体を鍛えれば鍛えた分だけ、技などの切れも良くなるから。
そうは言っても、向き不向きがあるのが人というもの。
虚弱に生まれたブルーの身体は、鍛えようとすれば悲鳴を上げる。
体育の授業も見学が多いほどなのだから、じきに壊れてしまう肉体。
だからブルーの顔を見詰めた。「無茶するなよ?」と。
「いいか、お前は鍛えなくてもいいからな」
お前の分まで俺が頑張って鍛えておくから、お前は今のままでいい。
鍛えようとか、強くなろうとか、考えなくても。
今度は俺が守ってやる、と微笑み掛けた。「俺に任せろ」と。
「んーと…。だったら、もっと鍛えてくれる?」
ぼくがお願いした分だけ、と赤い瞳が瞬いた。
「もっと鍛えて欲しいんだけど」と、「もっと凄く」と。
「ふむ…。お前、今だとまだ足りないのか?」
今の俺でも、お前くらいは片手で楽に抱えられるが、と請け合った。
ブルーの軽い身体だったら、本当に片手で軽々と持てる。
前と同じに育った時にも、それは変わらないと思うから。
そうしたら…。
「違うよ、今からうんと鍛えて!」
前のハーレイよりも凄くなってよ、と身を乗り出したブルー。
「前よりも上手なキスがいいな」と、「今から練習」と。
会う度にキスを重ねていたなら、きっと上達する筈のキス。
それを今から鍛えて欲しいと、「ぼくも練習に付き合うから」と。
「…キスだって!?」
そいつは鍛えなくてもいい、とハーレイが小突いたブルーの額。
「お前が練習に付き合えるようになるまでは」と。
チビの間は「全く鍛える必要は無い」と、「俺も、お前も」と。
ブルーはプウッと膨れたけれども、鍛える気にはならないキス。
まだまだキスは早すぎるから。
小さなブルーには、頬と額へのキスで充分なのだから…。
鍛えるのは好き?
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