(まだ何年もかかるんだよなあ…)
少なくとも四年近くはかかる、とハーレイがふと考えたこと。
夜の書斎でコーヒー片手に、小さなブルーを思い浮かべて。
今日はブルーの家には寄らずに帰って来たから、学校で言葉を交わしただけ。
挨拶の後に、ほんの少しの立ち話。
それだけでおしまいだったけれども、会えただけでも充分、嬉しい。
前の生から愛し続けた恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
ブルーと一緒に青い地球の上にいられるだけでも、今の自分は幸せ者だと思うから。
それにいつかは結婚できるし、今度こそブルーといつまでも一緒。
同じ家で暮らして、二人で食事。もちろん眠る時だって…、と未来への夢は尽きないけれど。
その日が来るのはまだ先のことで、四年近くはかかる現実。
十四歳にしかならないブルーは、結婚できる年を迎えてさえいない。
今の学校を卒業してから、やっと迎える十八歳の誕生日。三月の一番最後の日に。
其処でようやく結婚できる年になるわけで、「まだまだ先」と言ってもいい。
おまけにチビの子供のブルー。
前の生で初めて出会った頃と全く同じに、細っこい手足をした子供。
(小さなあいつも可愛いんだが…)
幼さの残るブルーの顔立ち、声変わりしていない声。
前のブルーが失くしてしまった子供時代の記憶の一切、それをもう一度手に入れたブルー。
今もせっせと幸せな記憶を増やしているから、見守る自分も幸せな気分。
前の分まで楽しんで欲しい子供時代。ゆっくり育って、存分に。
(そう思って、あいつを見てるわけだが…)
先は長いな、と改めて気付かされたこと。
小さなブルーが子供の間は、一向に来ない結婚できる日。
ブルーと二人で暮らせる日までは、まだまだ時間がかかるのだな、と。
とはいえ、とうに覚悟の上。何年も待つということは。
いつもブルーに「ゆっくり育てよ」と言い聞かせるのも、心の底から思うこと。
急いで育って前のブルーと同じ姿にならなくても…。
(子供時代は二度と戻って来ないしな?)
せっかくだから、うんと楽しめ、とブルーにも何度も言ってある。
小さなブルーは渋々といった顔だけど。…不満そうではあるけれど。
なにしろブルーの望みときたら、前のブルーと同じ背丈になるまで育つこと。
そうすればキスが出来るから。
「それまで俺はキスはしない」と叱り付けたり、睨んだりする日々だから。
キスを断ったら、たちまちプウッと膨れるブルー。フグみたいに。
そんな姿も可愛く思う自分がいるから、何年だって待つけれど。
何十年でも待てるけれども、ブルーが育ち始めたら…。
(…そりゃあ幸せな気分だろうな?)
もうすぐだよな、と心の中で指折り数えて待つハッピーエンド。
今のブルーを手に入れられる日。
(プロポーズはともかく、難関は色々あるんだが…)
何も知らないブルーの両親、教師で守り役の自分が「息子さんを下さい」と申し込んだら…。
いったい何が起こるやら、と心配の種は山のよう。
男同士の結婚だけでも、途惑うだろうブルーの両親。
その上、いつも家に出入りしていた「ハーレイ先生」が、一人息子を欲しがるのだから。
(まあ、その時になればだな…)
案外、上手くいくかもしれない、と楽観的な自分もいる。
前の生から恋人同士で、こうして生まれ変わった二人。
もう間違いなく運命の恋人同士なのだし、「上手くいくさ」と。
壁にぶつかっても、それもいつかは「いい思い出」。
神様が手を貸して下さるだろうし、ブルーと越えてゆける筈、と。
ハッピーエンドのウェディングベルを、幸せ一杯で鳴らせるだろうと。
いつか迎えるハッピーエンド。
小さなブルーが育ち始めたら、ぐんぐん近付く結婚式の日。
(前のあいつとそっくり同じに育ったら…)
一番に贈りたいのがキス。恋人同士の唇へのキス、それをブルーに。
小さなブルーが欲しくて欲しくて、あの手この手で強請り続ける「本物のキス」を。
キスを交わせるようになったら、デートも解禁。
ブルーと二人で出掛けてゆけるし、車に乗せてドライブだって。
(結婚に向けて、準備もしないといけないが…)
その前にまずは楽しまないと、と思うブルーとのデートやドライブ。
前の生では誰にも言えない恋だったのだし、デートなど出来るわけがない。
そうでなくても白いシャングリラが世界の全てで、デートもドライブも無理だった二人。
(前の俺たちの分までデートだ)
それにドライブ、と顔が綻ぶ。
結婚までにも素晴らしい日々がやって来るのが、小さなブルーが前と同じに育った時。
「その日が来るのが楽しみだよな」と、「あいつが育ってくれたなら」と。
きっとブルーが育ち始めたら、胸が躍るような毎日だろう。
学校で、ブルーの家で会う度、「昨日よりも育った」ブルーの姿。
自分との背丈の差が少しずつ縮み始めて、顔立ちも大人びてゆくブルー。
(声変わりもして、チビは卒業で…)
どんどん美人になっていくんだ、と誇らしい気持ち。
今の時代も、前のブルーは絶大な人気。写真集が幾つも出るほどに。
気高く美しかった恋人、ソルジャー・ブルーに日毎に似てゆく今のブルー。
(そのブルーが俺の恋人で…)
俺は最高の美人を手に入れるんだ、と思った所で気が付いた。
小さなブルーが育ち始めたら、誰もが目にする「美しく育ってゆく」ブルー。
すらりと伸びた華奢な手足に、非の打ち所がない美貌。
前のブルーと瓜二つの美人、それが日に日に育つのだから…。
(…見てりゃ、誰でも分かるよな?)
今のブルーが凄い美人に育つこと。
チビの子供の今は全く気付かれなくても、背が伸びて育ち始めたら。
(…そうなってくると…)
きっと誰もが目を向ける。
ソルジャー・ブルーとそっくり同じに育ちそうなブルーに、育つ途中の今のブルーに。
「凄い美人になりそうだ」と。
その片鱗が見え始めたなら、もう早速に…。
(学校の女子が目を付けそうだぞ、なんたってソルジャー・ブルーだからな)
恋に恋するような年頃の子でも、放っておきはしないだろう。
夢の王子様に恋をするように、群がるだろうブルーの周り。
(…あいつが困っちまっていても…)
気にもしないでキャーキャー騒いで、手渡しそうなプレゼント。
手作りの菓子だの、頑張って作った小物だの。
学校でさえも、そういう有様。…ブルーの周りに群がる女子たち。
(でもって、あいつが街にでも出たら…)
上の学校に通う生徒や、大人たちだって気付くだろう。
「凄い美人が歩いている」と、「声を掛けたら、話くらいは出来るかも」と。
小さなブルーが育ち始めても、人柄は今と同じだから…。
(知らんぷりして行きやしないぞ…)
何の用かと振り返りそうな、今よりも育った小さなブルー。
もう小さくはないけれど。前のブルーとそっくり同じに育つ途中の姿だけれど。
(まさか、一緒にお茶を飲んだり…)
飯を食ったりはしないと思うが、と分かっていたって、気掛かりなこと。
何人がブルーに目を付けるだろうと、呼び止めて話そうとするだろうかと。
(運が良ければ、ちょっぴり話すくらいはな…?)
出来るわけだし、それが出来たら充分、ラッキー。
そんな気持ちでブルーを呼び止め、話す輩が出て来そうだが、と。
なんてこった、と見開いた瞳。
育ってゆくブルーを自分が見守る間に、一足お先にブルーに声を掛ける人間。
学校だったら女子生徒たちで、それは賑やかに騒ぐのだろう。
ブルーに振り向いて貰いたいから、菓子などのプレゼントを用意して。
学校ではなくて街角だったら、「駄目で元々」とブルーを呼び止めそうな連中。
(あいつ、絶対、止まって話を聞くんだから…)
興味を引かれる話題だったら、熱心に聞いていそうなブルー。
相槌を打って、「それで?」と先を促しもして。
「何処かでゆっくり座って話そう」と誘われたって、断りそうにないブルー。
今の時代は「よからぬ輩」はいない時代で、とても平和な時代だから。
見知らぬ誰かとお茶を飲もうが、食事をしようが、要らない心配。
(…それで気が合えば、また待ち合わせで…)
どんどん仲良くなったりするから、ブルーにも掛けられそうな声。
運が良ければ凄い美人と付き合えるのだし、「いいな」と思った男性たちから。
(…それは大いに困るんだが…!)
ブルーは俺のブルーなんだ、と思うけれども、育つ途中は出来ないデート。
自分がそういう決まりを作って、ブルーと約束したのだから。
(…あの約束はマズかったか?)
もっと柔軟にすべきだろうか、と今から心配する未来。
「ブルーは俺のブルーだからな」と。
けして誰にも譲りはしないし、自分よりも先にデートされてはたまらない。
誰にもやらない、と思う恋人。
いつか決まりを変えてでも。前と同じに育つ前から、デートすることになったとしても…。
誰にもやらない・了
※ブルー君との未来を夢見るハーレイ先生。いつか必ずハッピーエンド、と。
けれどブルー君が育ち始めたら、誰かに先を越される恐れがあるデート。譲れませんよねv