(ハーレイ、とにかくケチなんだよね…)
ぼくがチビだから、キスだって無し、と不満たらたらのブルー。
こうしてハーレイと向かい合っていても、チビ扱い、と。
いい雰囲気になったから、とキスを強請っても断られるのが常。
「俺は子供にキスはしない」と、それはつれなく。
今日もそうなるに決まっているから、なんとも腹が立つけれど。
それでもハーレイのキスが欲しくて、方法は無いかと考えもする。
ハーレイの心が動きさえすれば、キスだって、と。
(何かないかな…)
いい方法、と思うけれども、ハーレイはそう甘くない。
策を巡らせても、誘惑しても、ビクともしないのがハーレイ。
少しも隙が無いものだから、どうしようもないというわけで…。
憎らしいくらいに冷静な恋人、考えてみれば元はキャプテン。
前の生ではキャプテン・ハーレイ、そうそう動揺する筈がない。
今も柔道で鍛えた武道家、水泳の腕もプロ級だけに…。
(ちょっとやそっとじゃ、ビックリしたりもしないから…)
ホントに隙が無いんだよね、と考える内に閃いたこと。
そのハーレイにも弱点はある。
しかもとびきり凄い弱点、動揺するのは間違いない。
(試してみるだけの価値はあるかも…!)
これだ、と確信したものだから、「いたたた…」と抱えたお腹。
少しも痛くないのだけれども、痛そうに。
紅茶のカップもケーキのお皿も、放り出してしまって背を丸くして。
「おい、どうしたんだ!?」
急にどうした、とハーレイがガタンと椅子から立ち上がる。
俯いてお腹を抱えているから、気配だけしか分からないけれど。
直ぐに側へと来てくれたハーレイ。
心配そうに覗き込んでくる鳶色の瞳。「大丈夫か?」と。
「お腹、痛くて…。でも、平気…」
じきに治ると思うから、と続けるお芝居。健気なふりで。
本当は少しも痛くないのに、痛みを堪えて微笑むかのように。
「しかしだな…。お前、痛そうなんだし…」
とにかくベッドに横になれ、とハーレイが言うから弾んだ胸。
きっと運んで貰えるだろうし、「歩け」とは言わない筈だから。
(ハーレイに抱いて運んで貰って、ベッドに着いたら…)
そのままキスを強請ってみよう、と捕らぬ狸の皮算用。
お腹が痛くてたまらないのだし、きっとキスだって貰えるよ、と。
「これで治るさ」と痛み止め代わりの優しいキス。
いつもだったら断られるけれど、特別に。
(ふふっ、特別…)
ハーレイのキス、と考えたのに。
「やっぱりハーレイの弱点は、ぼく」と胸を張りたい気分なのに。
いきなりコツンと小突かれた頭。そのハーレイの拳で、軽く。
「何するの!?」
痛いじゃない、と抗議の声を上げたら、ニヤリと笑うハーレイがいた。
「治ったよな?」と。
「痛い場所、もう変わったよな」と、「お腹の方は大丈夫だろ?」と。
騙されないぞ、と一枚も二枚も上手なハーレイ。
「お前の心は丸見えなんだ」と、「もっと上手に嘘をつけ」と。
だからショボンと萎れるしかない。
キスして貰う夢は砕けて、代わりに額をコツンだから。
今日もハーレイはキスをくれなくて、意地悪な笑みが見えるから…。
ぼくが弱点・了