「ねえ、ハーレイは敬語だったよね?」
ぼくと話をする時は、と小さなブルーが傾げた首。
家に来てくれたハーレイと話している時に。
いつものテーブルを挟んで向かい合わせで、唐突に。
「…敬語だと?」
俺は一度も使っちゃいないが、とハーレイは怪訝そうな顔。
現に今日だって使っていないし、ごくごく普通の言葉だから。
「それって、今のハーレイでしょ?」
前のハーレイは違ったものね、とブルーが言うのは時の彼方でのこと。
ブルーがソルジャー、ハーレイがキャプテンだった船。
其処では確かに敬語だった、とブルーが指摘する言葉遣い。
キャプテン・ハーレイは、いつもソルジャーに敬語を使い続けたから。
他には誰もいない時でも、二人きりで過ごしていた時も。
そういやそうか、と頷かざるを得ないハーレイ。
前のブルーとの恋を隠すには、絶対だった「敬語で話す」こと。
もしも普通に話したならば、船の者たちに勘繰られるから。
「ずっと敬語だったのに、どうしたことか」と。
そうだったよな、とハーレイだって覚えているから、ニッと笑った。
「前の俺の頃はそうだったっけな…。今は違うが」
ついでに逆転しちまったよな、と小さなブルーの顔を見詰める。
「今はお前の方が敬語だ」と、「俺はハーレイ先生だしな?」と。
「それなんだけど…。学校で会ったら、そうなんだけど…」
なんだかズルイ、とブルーが尖らせた唇。
「ぼくは頑張って切り替えてるのに、ハーレイは何もしないよね」と。
「前のハーレイもやっていない」と、「ぼくの前でも敬語のまま」と。
ブルーは不満そうだけれども、今のハーレイには必要ないのが敬語。
生徒に敬語を使いはしないし、「使われる方」が当たり前。
ついでに前のブルーにしたって、ソルジャーという立場だったから…。
「おいおい、今の俺だと言葉遣いはコレが普通で…」
前のお前の頃とは事情が違うんだ。あの頃は間違えられないしな?
ウッカリ普通に喋っちまったら、俺たちの恋がバレかねなかった。
切り替えるなんて、そいつはリスクが高すぎたんだ。
だから敬語を使い続けた、と説明したら…。
「分かってるけど、たまには敬語で喋って欲しいな」
いつもは普通に話してるんだし、たまには敬語、と強請られた。
「前のぼくと話していた時みたいに」と、「少しでいいから」と。
「此処なら誰も聞いていないし、ほんのちょっぴり」と。
なるほど、と思わないでもないから、戯れに切り替えた言葉。
「分かりました」と、「敬語で話せばいいのですね?」と。
「うん、そう!」
前のハーレイと話しているみたい、とブルーは喜んだのだけれども。
暫く経ったら落ち着かない顔、「やっぱり変かも」と。
「変だなどと…。私の言葉はおかしいですか?」
気を付けているつもりなのですが、と返してやったら…。
「なんだか、ぼくが凄く偉そう…。王子様みたい」
「そうですね。私の大事な王子様ですよ」
とても小さくて愛らしくて…、と今日は敬語を貫くつもり。
そういうゲームも楽しいから。
ブルーは大切な王子様だし、誰よりも愛おしい人なのだから…。
敬語でお願い・了
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