(俺のブルーだ、って言ってくれるけど…)
それだけだよね、と小さなブルーがついた溜息。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日も訪ねて来てくれたハーレイ。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
逞しい腕にギュッと抱き締められて、貰った言葉が「俺のブルーだ」。
何度この言葉を聞いただろう。
青い地球の上で再会してから、何度耳にしたことだろう。
いつだって、強く抱き締められて。
ハーレイの想いがこもった言葉を、大好きでたまらない声で。
(……でも……)
まだまだずっと先のことだよ、と思ってしまう言葉でもある。
「俺のブルーだ」と言ってくれても、その時限り。
ハーレイは「またな」と帰ってしまって、ポツンと一人で残される自分。
一緒に帰ってゆけはしなくて、いつもこうして独りぼっち。
再会する前とまるで変わらない、自分の部屋に一人きりの夜。
(ハーレイに会う前は、少しも寂しくなかったけれど…)
一人のんびり過ごしたけれども、今では違う。
愛おしい人が側にいてくれないから、募る寂しさ。
この時間ならば、ハーレイは書斎にいるのだろうか。
何ブロックも離れた家で。
窓から外を覗いてみたって、見えるわけもないハーレイの家で。
(…ぼくは、ハーレイのブルーだけれど…)
ホントはそうじゃないんだよね、と分かっていること。
いつか結婚出来る時まで、一緒に暮らせるようになるまで、この家のブルー。
両親の大事な一人息子で、「パパとママのブルー」。
寂しいけれども、それが現実。
「俺のブルーだ」と言って貰えても、「ハーレイのブルー」にはなれないから。
なんとも悲しい自分の現状。
チビの自分は、まだ何年も待つしかない。
結婚出来る年になるまで、「ハーレイのブルー」になれはしなくて、今のまま。
「パパとママのブルー」で、この家に住んで、ハーレイが来るのを待っているだけ。
仕事が早く終わった日だとか、休日とかに。
二人で過ごして「俺のブルーだ」と、ギュッと抱き締めて貰っても…。
(ハーレイのブルーじゃないんだよ、ぼく…)
残念だよね、と眺める小さな自分の手足。
前の自分とそっくり同じに育っていたなら、十八歳になっていたのなら…。
(…ハーレイのブルーになれたのに…)
再会したら、直ぐに結婚して。
ハーレイの家で一緒に暮らして、「俺のブルーだ」という言葉通りになったろう。
そしてハーレイの方だって…。
(…ぼくのハーレイ…)
ぼくだけのハーレイになってたんだよ、と悔しい気分。
今みたいに、夕食の席で両親に取られたりせずに。
いつもハーレイを一人占めだし、幸せ一杯の日々だった筈。
ハーレイと結婚出来ていたなら、「ハーレイのブルー」になれていたなら。
(…ホントに残念…)
チビの身体じゃなかったら、と嘆いてみたって、どうにもならない。
もうこの姿で出会ったのだし、大きくなれる日を待つしかない。
一ミリさえも伸びてくれない背丈が、伸び始めて前と同じになるまで。
前の自分とそっくり同じ姿に育って、結婚出来る年になるまで。
(…まだ何年もかかるんだから…)
十四歳にしかなっていないもの、と指を折ってみる。
結婚出来る十八歳は、まだまだ先、と。
来年どころか、もっと先のこと。
「ハーレイのブルー」になれる日が来るのは、ハーレイが手に入るのは。
それでも前のぼくよりはマシ、と考え方を変えることにした。
前の自分は、「ハーレイのブルー」になれないままで終わったから。
仲を引き裂かれてしまったから。
ソルジャーとキャプテン、白いシャングリラに欠かせない二人。
仲間たちを導く長のソルジャー、シャングリラの舵を握るキャプテン。
恋をしていると知れてしまったら、全てが上手く運ばなくなる。
シャングリラを私物化しているのだ、と仲間たちは思うだろうから。
いくら会議で決めたことでも、「本当なのか?」と疑い、信じてくれないから。
何もかも二人で決めているのだと、恋人同士なら意見が合って当然だろうと、誤解をして。
(…恋がバレたら、大変なことになっちゃうから…)
最後まで隠して隠し続けて、それきりになってしまった恋。
仲間たちには明かせないまま、前の自分たちの恋は終わった。
運命に仲を引き裂かれて。
前の自分はメギドへと飛んで、命が終わってしまったから。
(…ぼくが地球まで行けていたなら…)
恋を明かして、二人で暮らす筈だった。
そういう夢を描き続けた、「地球に着いたら」と。
けれど、それさえ出来なくなった前の自分たち。
前の自分の寿命が尽きると分かった時から、もう見られなくなった夢。
(…ハーレイのブルーには、なれなくて…)
ハーレイも手に入らなかった。
「何処までも共に」とハーレイは誓ってくれていたのに、連れてはゆけなかったから。
もしもハーレイを連れて逝ったら、シャングリラは地球まで辿り着けない。
分かっていたから、ハーレイを一人、船に残した。
ミュウの未来を守るためにと、「ジョミーを支えてやってくれ」と。
そう言い残して飛び去ったのが前の自分。
死が待つメギドへ、たった一人で。
「ハーレイのブルー」になれもしないで、ハーレイの手さえ離してしまって。
あの悲しすぎた恋に比べたら、今の自分の恋は幸せな恋。
まだまだ先のことにしたって、「ハーレイのブルー」になれるのが自分。
いつか結婚式を挙げたら、ハーレイだけのものになる。
幸せな誓いのキスを交わして、ハーレイの花嫁になって。
(…ぼくはハーレイだけのブルーで…)
ハーレイもぼくのものになるんだよ、と微笑んだけれど。
「今度はハーレイも、ぼくだけのハーレイなんだから」と考えたけれど。
もうキャプテンじゃないんだものね、と思った、そのハーレイは…。
(えーっと…?)
一人占めするのは無理だろうか、と瞬かせた瞳。
今は学校の教師のハーレイ、頼りにしている生徒が大勢いる。
柔道部員の生徒はもちろん、クラス担任になったなら…。
(…ハーレイを頼って来る生徒…)
一杯いるよね、と丸くなった目。
休日はともかく、平日だったら学校の生徒が最優先。
家に帰って来た後の時間なら、「悪いが、俺も忙しいんでな」と言ってもいいけれど…。
(…学校にいる間は、ぼくより生徒の方が優先…)
どう考えても、そうなってしまう。
ハーレイが合宿に行ってしまっても、同じこと。
自分は家に独りぼっちで、ハーレイは生徒たちのもの。
みんなでワイワイ食卓を囲んで、夜には花火なんかもして。
(…ハーレイ、ぼくだけのハーレイじゃないの?)
今度もやっぱり違ったりするの、と思い浮かべた白いシャングリラ。
あの船でキャプテンだったハーレイ、皆が頼りにしていた人物。
それと同じで、今度は生徒に頼られる教師。
柔道部員の指導をしたり、担任の生徒の相談に乗ったり、他にも色々。
一人占めとはいかないハーレイ、結婚しても。
「ハーレイのブルー」になった後にも、ハーレイは手に入らない。
丸ごと、一人占めは無理。
(…ぼくだけのハーレイじゃないなんて…)
そんな、と前の自分を思う。
前の自分も、ハーレイに言えはしなかった。
「君はぼくだけのものだからね」とは、ただの一度も。
「ぼくだけの君だし、ぼくだけを見てくれなくちゃ」とは言えなかったまま。
言いたくても、それは叶わないこと。
いつか地球まで辿り着くまでは、ソルジャーとキャプテンではなくなるまでは。
(…ぼくだけのハーレイ…)
心の中では思ったけれども、いつも思っていたのだけれど。
面と向かって言えはしなくて、船の仲間たちに遠慮したまま。
キャプテン・ハーレイを盗ってしまったら、たちまち困る仲間たち。
だから言葉にしなかった。
ただ思うだけで、「ぼくのハーレイ」くらいが精一杯で。
(今度は、ぼくだけのハーレイなんだ、って…)
思っていたのに、違うのだろうか、と愕然としてしまったけれど。
「そんなの酷い」と考えたけれど、其処で浮かんで来た言葉。
今の自分は「ハーレイのブルー」になれはしなくて、「パパとママのブルー」。
自分が「パパとママの」ものなら、ハーレイだって…。
(…隣町に、ハーレイのお父さんとお母さん…)
ハーレイは、その人たちのハーレイだっけ、と気が付いた。
「ぼくのだよ」と一人占めしてしまったならば、ハーレイの両親も困るだろう。
隣町には行っちゃ駄目、とハーレイを独占してしまったら。
(…ぼくがパパとママのブルーなのと、おんなじ…)
ハーレイにも大切な人たちがいるよね、と見開いた瞳。
血の繋がった本物の両親、前の自分たちが生きた時代は「親」は養父母だったのに。
(…今の時代は、誰だってパパもママもいるから…)
もうそれだけで一人占めするのは無理みたい、と浮かべた笑み。
だったら、生徒たちがハーレイを持って行ってしまうのも許そうかな、と。
生徒たちには大事なハーレイ、そのくらいは大目に見たっていい。
学校がある間だけだし、合宿の時も、その間だけ。
(…普段は、ハーレイ、ぼくと一緒で…)
ぼくは「ハーレイのブルー」になれるんだから、と考える。
それだけで充分幸せだよねと、「ぼくだけのハーレイ」は無理でも我慢しよう、と。
「ハーレイのブルー」になれるから。
いつか結婚式を挙げたら、前の自分がなれずに終わった「ハーレイのブルー」なのだから…。
ぼくだけの君・了
※今度はハーレイを一人占めだよ、と思ったブルー君ですけれど。どうやらそれは難しそう。
けれど、今度は「ハーレイのブルー」になれるのがブルー君。一人占めの方は我慢ですv