(んーと…)
そういう歌はあるんだけどな、と小さなブルーが考えたこと。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は来てくれなかったハーレイ、前の生から愛した恋人。
青い地球の上でまた巡り会えて、恋をしているけれど。
前の自分たちの恋の続きが始まったけれど、こうして恋をしていられるのは…。
(…ぼくもハーレイも、生まれ変わりで…)
新しい命と身体を貰って、もう一度巡り会えたからこそ。
五月の三日に再会するまで、まるで知らなかったハーレイのこと。
今のハーレイは知りもしないし、前の自分が恋したハーレイの方にしたって…。
(…歴史の授業で教わった人…)
白いシャングリラを地球まで運んだ、偉大なキャプテン。
ミュウの時代を築いた英雄、キャプテン・ハーレイはそういう人。
もちろん写真は知っていたけれど、たったそれだけ。
「素敵な人だ」と思いもしないし、名前を聞いても「ふうん?」と思っていた程度。
少しも高鳴らない心臓。
まるで心を惹かれはしなくて、歴史上の重要人物の一人。
(…前のハーレイ、そうだったのに…)
何もかもがすっかり変わってしまって、今の自分はハーレイに夢中。
家を訪ねてくれなかった日は、ションボリとしてしまうくらいに。
(少しでも一緒にいたいものね?)
前の自分の記憶が戻って、ハーレイのことを思い出したら、そうなった。
恋の続きを生きているから、恋人の側にいたいから。
(生まれ変わって、また出会うって…)
恋歌にあったりするのだけれども、本当にある、と今の自分は知っている。
今だってハーレイに恋をしているし、前の自分もそうだったから。
生まれ変わってまた巡り会えて、今も恋人同士だから。
遠く遥かな時の彼方で、恋人同士だった自分たち。
ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイ、そう呼ばれていた恋人同士。
恋のことは隠し続けたけれど。
最後まで誰にも明かすことなく、恋は宇宙に消えたのだけれど。
(…だけど、今でも恋人同士…)
ハーレイと二人、長い長い時を越えて来た。
死の星だった地球が蘇るほどに、青い水の星が宇宙に戻って来るほどに。
それほどの時が流れたけれども、消えてしまいはしなかった恋。
こうしてハーレイと巡り会えたし、これからも恋をしてゆける。
前の自分は泣きながら死んでいったのに。
「もうハーレイには二度と会えない」と、「絆が切れてしまったから」と。
最後まで持っていたいと願った、ハーレイの温もりを失くしてしまって。
銃で撃たれた痛みで落として、それきり消えてしまった温もり。
右手が冷たいと泣きじゃくりながら、メギドで死んだソルジャー・ブルー。
(…あれでおしまいだと思ったのに…)
どうしたわけだか、気付けば目の前にハーレイがいた。
聖痕が身体に現れたせいで、意識は薄れていったのだけれど。
溢れ出す血と激しい痛みに、勝つことは出来なかったのだけれど。
けれど、ハーレイに会えたことは分かった。
また会えたのだと、愛おしい人の許に自分は帰って来られたと。
この人が自分の愛した人だと、ずっと前からハーレイのことが好きだったと。
(…ちゃんと会えたし、前のぼくのことも…)
忘れていない、とキュッと握った小さな右手。
ずいぶん小さくなったけれども、これがメギドで凍えた右手。
ハーレイが何度も大きな両手で包み込んでは、そっと温もりを移してくれた。
「大丈夫か?」と、「もう冷たいのは治ったか?」と。
そうして温もりが戻って来るのも、生まれ変わって出会えたから。
前の自分たちの恋の続きを、ハーレイと二人で生きているから。
ハーレイに恋して、幸せな自分。
会えない時でも、ハーレイのことを想わないではいられない。
(ハーレイに会えなくて、寂しくなってしまうのも…)
また巡り会えて恋をしたからで、ハーレイがいてくれるから。
前の自分が焦がれた地球に、二人一緒に生まれ変わって。
同じ町に住んで、ちゃんと出会えて、恋の続きを生きてゆくことが出来るから。
(…ハーレイがいるから、とても幸せ…)
ホントに幸せ、と思うけれども、自分たちのように「生まれ変わる」こと。
「生まれ変わって、また恋をする」と歌う恋歌はあるけれど。
チビの自分でも知っているくらい、人気のテーマになっているけれど。
(…本当に生まれ変わって、出会える人って…)
そうはいない、とチビでも分かる。
本当に歌の通りになるなら、そういうカップルたちで溢れ返った世界の筈。
けれども「生まれ変わり」の実例、そんなケースを自分は知らない。
ただの一つも。
それに普通のことだったならば、恋歌になって歌われたって…。
(…当たり前でしょ、って思われちゃって…)
誰も歌ってくれないだろう。
人気は出ないし、流れていたって聞き流されてしまっておしまい。
「今の歌は誰の歌だろう?」とも思われないで。
気に入ったから、と欲しがる人もいなくて。
(…歌のようにはいかないから…)
恋人たちが憧れる。
永遠に続く、終わらない恋。
どちらかが死んでしまった後にも、恋は何処までも続いてゆく。
ほんの少しの間のお別れ、もう一人の命も尽きたなら…。
(ちゃんと出会えて、また恋をして…)
恋の続きを生きてゆけるし、また死が来たって、少しお別れするだけだから。
何年か経ったら、必ず巡り会えるから。
何度生まれても、巡り会う二人。
いつまでも切れない、恋人同士を結んだ絆。
そんな恋をしたいと誰もが願って、恋歌も人気なのだけど。
色々な人が歌うけれども、実際には上手くいかないもの。
巡り会える人たちが少ないからこそ、今の時代も人気の恋歌。
「生まれ変わっても、また巡り会おう」と、「何度でも出会って、また恋をする」と。
そう出来たなら、と皆が夢見るから。
ずっと恋人同士でいようと、恋人たちが誓い合うから。
(…前のぼくたちも、そうだったけど…)
何処までも二人一緒なのだと、何度も絆を確かめたけれど。
そうはいかなくて、前の自分はハーレイの手から離れて飛んだ。
死が待つメギドへ、たった一人で。
前のハーレイを一人残して、二度と戻れはしない場所へと。
(…それに、ハーレイの温もりだって…)
落として失くして、切れたと思った前のハーレイとの絆。
なのに、切れてはいなかった絆。
青い地球の上に生まれ変わって、またハーレイと恋をしている。
(…歌の世界なら、そんな恋だってあるんだけれど…)
恋歌みたいに会えたけれど、と見回す世界。
今の自分が住んでいるお城、両親に貰った子供部屋。
それの外には、まず地球があって、地球の向こうには広い広い宇宙。
前の自分がシャングリラで旅をしていた宇宙が、幾つもの星が散らばるけれど…。
(…生まれ変わって、また会える人は…)
きっと本当に、ほんの少ししかいないのだろう。
今この瞬間に何組いるのか、もしかしたら自分たちだけかもしれない。
広い宇宙を探してみたって、一組しかいない奇跡のような組み合わせ。
前の生からの恋の続きを、そのまま生きてゆけるカップル。
恋歌には幾つも歌われていても、本物は宇宙に一組だけしかいないとか。
どうなんだろう、と傾げた首。
ハーレイと自分しかいないというのか、他にも少しはいるものなのか。
(…分かんないよね?)
そんな調査はされてもいないし、していると聞いたことも無い。
調査するほど例があるなら、きっと誰かが色々調べているだろうから…。
(…ぼくとハーレイだけなのかも…)
聖痕だって奇跡だもの、と眺めた身体。
前の自分がメギドで撃たれた時の傷痕、それを再現したような傷。
大量の血が溢れ出したというのに、何の傷痕も残らなかった。
それと同じに、ハーレイと二人で生まれ変わって来たことも奇跡。
巡り会えて恋をしていることも。
前の自分たちの恋の続きを、二人で生きてゆくことも。
(…本当に、恋の歌みたい…)
こうして此処に生きていること、ハーレイと恋をしていること。
切れてしまったと思った絆が、切れずに続いていたことも。
(前のぼく、恋の歌なんか…)
歌っていたのか、どうだったのか。
記憶はハッキリしないけれども、生まれ変わっても続いてゆく恋の歌などは…。
(歌ったとしても、きっと…)
憧れただけで、本当になると夢を見たりはしなかったろう。
ハーレイと二人で生まれ変わるなど、恋の続きを生きてゆくなど。
(…二人一緒に、天国だったら…)
考えたけれど、死んだ後も一緒だと思ったけれど。
また生きようとは思わなかったし、生きられるとも思っていなかった筈。
(…なんだか凄い…)
ぼくもハーレイも生きているよ、と瞬かせた瞳。
生まれ変わりを歌う恋歌のように、恋の続きがやって来た。
そんな未来があるとも思っていなかったのに。
泣きじゃくりながら死んだ時には、絆が切れたと思ったのに。
(…ぼくもハーレイも、ホントのホントに…)
運命の恋人同士なんだよ、と誇らしい気持ち。
恋歌みたいに、生まれ変わって巡り会えたから。
前の自分たちの恋の続きを、ハーレイと二人、幸せに生きてゆけるのだから…。
恋歌みたいに・了
※ブルー君が思う、ハーレイ先生と二人で生まれ変わったこと。恋歌みたい、と。
歌には色々歌われていても、実例を知らないブルー君。運命の恋人同士、と得意そうですv