(ハーレイのケチ…)
ホントのホントにケチなんだから、と小さなブルーが零した溜息。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日も来てくれた、愛おしい人。
前の生から愛したハーレイ、また巡り会えた恋人だけれど。
(…キスは駄目だ、って…)
そればっかり、と膨らませた頬。
ハーレイはキスをしてくれないから。
「俺は子供にキスはしない」と、叱られてしまうだけだから。
額を指でピンと弾かれたり、頭をコツンとやられたり。
そうならなくても、鳶色の瞳に「分かってるよな?」と睨まれる。
「何度も言ってる筈なんだが」と。
(…キスは額と頬っぺただけ…)
悲しいけれど、そういう決まり。
ハーレイが勝手に決めてしまって、そうなった。
前の自分と同じ背丈にならない限りは、けして貰えはしないキス。
「ぼくにキスして」と強請っても。
「キスしてもいいよ?」と誘ってみても。
他にも色々試したけれども、キスは未だに貰えないまま。
今日も同じに叱られただけで、唇へのキスは貰えなかった。
恋人同士の二人だったら、そういうキスを交わすのに。
白いシャングリラで生きた頃には、何度もキスを交わしたのに。
(…ぼくからキスを頼まなくても…)
幾らでも貰えたハーレイのキス。
唇どころか、身体中に。
数え切れないほどのキスを貰って、それは幸せに生きていたのに。
そのハーレイとまた巡り会えて、青い地球の上で恋人同士。
幸せな時が流れ始めて、前の自分たちの恋の続きを生きている。
とても平和になった時代で、前の自分が焦がれた地球で。
(でも、ハーレイはケチになっちゃって…)
唇へのキスをくれないまま。
いくら頼んでも、強請っても無駄。
「キスは駄目だ」の一点張りで、ハーレイの心は動かせない。
どう頑張っても、ハーレイを釣ろうと色々な策を考えてみても。
(いつも、叱られちゃって終わりで…)
キスをくれないから、許せない。
なんというケチな恋人だろう、と。
「本当にぼくのことが好きなら、キスしてくれてもいいのに」と。
こんなにキスが欲しいのだから。
ハーレイの方でも、「俺のブルーだ」と強く抱き締めてくれるのだから。
(…許せないよね、キス無しだなんて…)
あんな恋人、と怒りたくなる。
ハーレイのことは好きだけれども、それとこれとは別問題。
恋人だったら、ぼくにキスして、と。
好きな証拠に唇にキス、と。
(キスもそうだし、他にも色々…)
許せないことがあるんだから、と思い始めたら出て来る欠点。
「あれでも、ぼくの恋人なの?」と。
例えば、置き去りにされること。
ハーレイが家に帰ってゆく時、自分はこの家にポツンと置き去り。
「またな」と置いてゆかれてしまって。
軽く手を振って帰るハーレイ、車で、あるいは自分の足で。
恋人を置いてゆくというのに、悲しそうな顔も見せないで。
別れのキスを贈る代わりに、「またな」と笑顔で手を振るだけで。
あれも許せない、と思う置き去り。
一度くらいは連れて帰って欲しいのに。
教師と教え子、そういう関係の二人なのだし、連れて帰っても大丈夫な筈。
両親だって、きっと許してくれるだろう。
「ハーレイ先生の家でお泊まり」するだけ、合宿のようなものだから。
恋人同士だと知りはしないし、止める理由は何も無い。
「御迷惑をかけないように」と、幾つか注意をされる程度で。
自分のことは自分でするとか、はしゃぎすぎて疲れないようにとか。
(…そういうの、出来る筈なのに…)
これまたハーレイのせいで出来ない、一緒に帰って泊まること。
ハーレイが許してくれないから。
キスも駄目なら、ハーレイの家に遊びに行くことだって…。
(…ハーレイが駄目って決めちゃったんだよ…!)
前の自分と同じ背丈になるまでは。
そっくり同じに育つ時までは、遊びに行けないハーレイの家。
だから泊まりに行けもしないし、ハーレイと一緒に帰れはしない。
「またな」と置いてゆかれるだけで。
ハーレイが一人で、車で帰ってゆくだけで。
(…ハーレイと一緒に帰れるんなら…)
車でなくても、文句を言いはしないのに。
路線バスに揺られて帰るコースはもちろん、「今日は歩くぞ」と言われても。
チビの自分には遠すぎる距離を、「ほら、頑張れ」と歩かされても。
(…それでも、許してあげるのに…)
車で来なかったハーレイのことを。
路線バスにも乗せてくれずに、「歩け」と言い出すハーレイだって。
大好きなハーレイの言うことだから。
頑張って一緒に歩いて行ったら、ハーレイの家に着くのだから。
門扉や玄関を開けて貰って、「入れ」と中に案内されて。
「何か飲むか?」と、優しい言葉も掛けて貰って。
けれども、そうはいかない現実。
ハーレイの家まで行けはしないし、連れて帰っても貰えない。
いくらハーレイのことが好きでも、こんなにケチな恋人なのでは…。
(許せないってば…!)
酷すぎだよ、と文句の一つも言いたくなる。
「ぼくは本当に恋人なの?」と。
「ハーレイはホントに、ぼくの恋人?」と。
ケチで意地悪なハーレイだから。
唇へのキスをくれない恋人、家に呼んでもくれない恋人。
それもハーレイが決めた理由で。
自分には相談してもくれずに、ハーレイが一人で決めてしまった約束事。
唇へのキスをくれないことも。
ハーレイの家に遊びに行ったり、泊めて貰ったり出来ないことも。
(好きでも、こんなの許せないよ…!)
ホントに酷い、と怒り出したら止まらない。
自分がチビの子供なばかりに、何もかも一人で決めるハーレイ。
少しも相談してはくれずに、「こうしろ」と。
「キスは駄目だと言ってるよな?」だとか、「俺の家には来るな」とか。
あまりにも自分勝手なハーレイ、一人で何でも決める恋人。
年が上だというだけで。
ハーレイは大人で、自分は子供というだけで。
(そんなの、狡い…)
恋人だったら、きちんとぼくにも相談してよ、と思うのに。
二人で相談して決めたのなら、どんな決まりでも、納得出来ると思うのに…。
(ハーレイ、一人で決めちゃって…)
ぼくには決まりを守らせるだけ、と膨らませた頬。
とても酷いと、あんなの許せないんだから、と。
ぼくが怒っても当然だよねと、ハーレイの方が悪いんだから、と。
(ハーレイのことは好きだけど…)
好きでも怒る時は怒るよ、と許せない気分。
ハーレイが「駄目だ」と決めた約束、それはキスだけではなかったから。
他にも幾つも思い出したから、どれも許せはしないから。
(あんなハーレイ…)
ぼくは絶対、許さないよ、とプンスカ怒って、想った前のハーレイのこと。
前のハーレイは優しかったから。
けして「駄目だ」と叱りはしなくて、穏やかな笑みを浮かべただけ。
「それがあなたの考えでしたら」と微笑んでいたし、反対意見を唱えた時も…。
(…頭から「駄目だ」って言ったりしないで…)
最後まで耳を傾けた上で、「ですが…」と控えめに述べていた。
前のハーレイの考えを。
「私はこのように考えますが」と、「私は間違っておりますか?」と。
ああいう風に言ってくれたら、自分も怒りはしないのに。
「こういう決まりにしようと思うが」と、その一言をくれていたなら…。
(それは嫌だ、って反対出来るし…)
ハーレイだって、少しは考える筈。
「本当にこれでいいのだろうか?」と。
キスのことにしても、「家に来るな」と決めてしまった一件も。
(…ぼくの意見を聞いてくれたら…)
そしたら、ぼくも許したかも、と思ったけれど。
聞きに来なかったハーレイが悪い、と考えたけれど、其処で気付いた。
今のハーレイは立派な大人。
それに比べて自分は子供で、十四歳にしかならないことに。
大人が子供の意見を聞いても、「なるほどな」と頷きはしても…。
(…お前の方が正しい、なんて…)
そうそう言いはしないのだろう。
いくら恋人の意見でも。
前の生からの絆があっても、そういう恋人同士でも。
これじゃ駄目だ、と零れた溜息。
前の自分とハーレイのようにはいかないらしい、と。
(…前のぼくだと、ソルジャーだから…)
それに年上だったんだから、と今の自分との違いを数える。
ハーレイよりも上だったよねと、年も、それから肩書きだって、と。
(…だから、ハーレイ…)
いつも敬語で話していた。
今のように「俺」と言いもしないで、「私」と、とても丁寧に。
周りに人がいない時でも、恋人同士で過ごす時にも。
(…あれって、なんだか…)
寂しい気がする、今のハーレイに比べたら。
「またな」と置き去りにするハーレイでも、「キスは駄目だ」と叱る恋人でも…。
(…ハーレイ、普通に喋ってて…)
その上、大人の余裕たっぷり。
「チビはもうすぐ寝る時間だぞ」と笑ったりもして。
ケチな恋人でも、今のハーレイの言葉遣いの方がいい。
額をピンと指で弾かれても、頭を拳でコツンと軽く叩かれたって。
(今のハーレイの方がいいみたい…)
いくら好きでも許せない、と思う恋人でも。
ケチでも、キスもくれなくても。
普通に喋って笑うハーレイ、そちらに慣れてしまったから。
前のハーレイだって、ずっと昔は、そういうハーレイだったのだから。
(…怒っちゃ駄目…)
許せないなんて思っちゃ駄目、と思うけれども、ちょっぴり悲しい。
ハーレイのキスが欲しいから。
家にも一緒に帰りたいから、ハーレイの側にいたいのだから…。
君が好きでも・了
※ハーレイ先生のことは好きでも、許せないことが沢山あるのがブルー君。キスは駄目、とか。
ケチでも今のハーレイの方がいいみたい、と気付いても…。悲しい気分なのが可愛いかもv
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