(んー…)
もうちょっとだけ、と小さなブルーが思ったこと。
休日の朝に、ベッドの中で。
さっき目覚ましが鳴ったけれども、今日は休日。
時間通りに飛び起きなくても、学校に遅刻したりはしない。
ほんのちょっぴり、朝御飯が遅くなるだけのこと。
目覚ましできちんと起きた朝より、そういう休日の時間より。
(…ちょっとだけ…)
もう少しだけ寝てもいいよね、と瞑った瞳。
昨夜は少し遅かったから。
夢中で本を読んでいる間に、経ってしまっていた時間。
寝ようと決めている時間より。
次の日も学校に行くのだったら、とうに寝ている時間よりも。
(…今日はお休み…)
そう思ったから、時計を見ないで本の世界に浸って過ごして、すっかり夜更かし。
目覚まし時計に起こされたって、「眠いよ」と訴えている身体。
学校に行かなくていい日なのだし、もう少しくらい寝てたって、と。
こうして一度は目を覚ましたから、眠ってもじきに目が覚めるよ、と。
(…眠い時には、ちょっぴりお昼寝…)
それで眠気がスッキリ取れる、と言っていたのは友達だった。
授業の最中に居眠りしていた言い訳だけれど。
「寝た方が頭が冴えるんです」と。
先生に見付かって叱られた時に、大真面目に。
眠い頭で起きているより、五分ほど寝るのが効率的。
それでシャッキリ目が覚めるのだし、そのために寝ていたのだと。
(先生、呆れていたけれど…)
否定はしない、と苦笑いだってしていたから。
眠い時には無理に起きるより、五分ほど寝た方がいい。
今朝の自分も、それがお似合い。
五分だけだよ、と瞑った瞳。
同じ五分を眠るのだったら、ぐっすりと。
そう思ったから、クルンと身体を丸くした。
眠る時には、いつもこうして丸くなるのが好きだから。
(…五分だけ…)
それで眠気が取れるんだしね、とウトウトと落ちた眠りの淵。
気持ちいいや、と。
五分経ったら目を覚まそうと、目覚まし時計は要らないよね、と。
(おやすみなさい…)
スウッと眠って、五分で起きる筈だったのに。
パッチリと目を覚ますつもりで、心地良く眠りに入ったのに。
「ブルー?」
朝よ、と母に揺り起こされた。
眠い瞼を押し上げてみたら、心配そうな母の顔。
「何処か具合が悪いの?」と。
「…ううん、ちょっぴり眠かっただけ…」
何時、と訊いてビックリ仰天。
五分しか経っていないつもりが、一時間以上も経っていたから。
母が「ほらね」と見せてくれた時計も、そういう時間を指していたから。
(嘘…!)
なんでこうなっちゃったわけ、と慌てたけれども、寝たのは自分。
友達が授業中に言った言い訳、それを自分も言い訳にして。
(五分で眠気が取れる、って…)
だから五分、と思っていたのに、五分どころか一時間以上も眠ってしまった。
母が心配して、部屋まで起こしに来るくらい。
(…でも、お休み…)
学校に遅刻するわけじゃないし、と考えたけれど。
大丈夫だよ、と思ったけれど…。
「大変…!」
どうして起こしてくれなかったの、とベッドの上に飛び起きた。
今日は休みで、いつもより遅くセットしていた目覚まし時計。
其処へ一時間以上の寝坊で、とても早いとは言えない時間。
(…ハーレイが来ちゃう…!)
いい天気だから、きっと歩いて。
母がカーテンを開けた窓から、日が燦々と射してくるから。
この時間だと家を出ているだろうか、こちらに向かって。
今から急いで支度したって、部屋の掃除が間に合わない。
朝御飯を食べていたならば。
いつもの休日、それと同じにのんびり過ごしていたならば。
もうバタバタと慌てているのに、母は「朝御飯、ホットケーキがいい?」と、いつもの調子。
それともトーストにマーマレード、と。
「ブルーは好きでしょ、ホットケーキの朝御飯?」
どっちにするの、と笑顔の母。
「どっちもいいよ…!」
ミルクだけで、と返した返事。
食べている時間は無さそうだから。
ホットケーキも、トーストも。
朝食なんかを食べていたなら、部屋の掃除は絶対に無理。
ハーレイが来る休日の朝は、張り切って掃除しているのに。
二人で使うテーブルだって、綺麗にキュッキュと拭いているのに。
「駄目よ、朝御飯抜きなんて」
「でも、ママ…!」
部屋の掃除が間に合わないよ、と叫んだら。
ハーレイが来ちゃう、と困り顔で部屋を見回したら…。
「ママがするわよ」と可笑しそうな母。
任せなさいなと、ママは掃除のプロなんだから、と。
部屋の掃除は、母が代わってくれるらしい。
それなら、とホッとついた息。
(ハーレイが来ても大丈夫…)
いつもの部屋、と安心したら、「パジャマじゃ駄目よ?」と母に言われた。
きちんと顔を洗って着替え、と。
朝御飯も食べて、ミルクだけにはしないこと、と。
「うん、分かってる…!」
食べるならホットケーキがいいな、と注文してから顔を洗いに。
寝坊したことが分からないよう、念入りに。
(…眠気はちゃんと取れたんだけど…)
さっきまで寝てた顔だもんね、と眺めた鏡に映った自分。
まだ眠そう、と。
しっかりと石鹸で顔を洗って、お湯と、冷たい水だって。
冷たい水だと、シャッキリと目が覚めるから。
鏡の向こうの自分の瞳も、もう眠そうではなくなったから。
(これでハーレイにはバレないよね?)
寝坊したこと、とタオルで拭いた顔。
水気を拭って、髪の毛だって跳ねていないか確かめた。
もしも寝癖がついていたなら、母に頼まないといけないから。
「寝癖、直して」と声を掛けて。
母が掃除に行ってしまう前に、寝癖がきちんと直るように。
(…跳ねてないから…)
そっちは平気、と戻った部屋。
次は着替えで、制服ではなくて家で着る服。
どれにしようか少し悩んで、これがいいな、と引っ張り出して。
(ハーレイが来るから…)
今日はこの服、と選んだ服を身に着けてゆく。
ハーレイも似たような服だといいなと、お揃いだったらいいのに、と。
着替えてダイニングに出掛けて行ったら、ホットケーキが焼き上がった所。
父に「寝坊か?」と笑われたけれど、気にしない。
ハーレイに笑われたわけではないから、寝坊はバレない筈だから。
(部屋の掃除はママがしてくれるし…)
大丈夫だよね、と掃除に行く母を見送りながらの朝御飯。
ホットケーキにメープルシロップ、それに金色のバターも乗せて。
熱で柔らかくとろけるバターと、メープルシロップが奏でるハーモニー。
これが大好き、と頬張っていたら掠めた記憶。
(…ホットケーキ…)
遠く遥かな時の彼方で、前の自分が食べていた。
青い地球を夢見て、いつか地球で、と。
地球に着いたら、ホットケーキを食べてみたいと夢を描いていた自分。
青い地球には、サトウカエデの森があるから。
地球の草をたっぷり食んで育った、牛たちのミルクで作ったバターもあるだろうから。
(いつか、こういう朝御飯…)
食べてみたいと何度思ったことだろう。
白いシャングリラが地球に着いたら、ホットケーキの朝食を、と。
ハーレイと一緒に食べたかったし、それが自分の夢だった。
(…地球には来られたんだけど…)
まだハーレイと朝御飯は食べられないものね、と零れた溜息。
一緒に暮らしていないのだから、二人きりで食べる朝食は無理。
夢のホットケーキは此処にあるのに、足りないハーレイ。
(…ハーレイと二人で暮らせるようにならないと…)
前の自分の夢の朝食、ホットケーキの夢は叶わない。
半分だけしか叶わないまま。
本物のサトウカエデのメープルシロップ、地球で育った牛のバター。
其処までだけしか叶わないよねと、ハーレイと一緒に食べられない、と。
まだ当分は無理なんだけど、とホットケーキを眺めるけれど。
フォークで口へと運ぶのだけれど、いつかは叶うだろう夢。
ホットケーキの朝食をハーレイと二人、そんな朝に自分が寝坊したなら…。
(…ホットケーキは、どうなっちゃうわけ?)
もしもハーレイに起こされたって、「もうちょっと…」と寝ていたら。
一時間以上もそのまま起きずに、ぐっすり眠ってしまっていたら。
(ホットケーキ、すっかり冷めちゃって…)
起きて行ったら、消えているかもしれない。
「冷めちまうから、食っておいたぞ」と、ハーレイがダイニングにいたりして。
二人分のホットケーキを平らげた後に、のんびりコーヒーを飲んだりもして。
(…そんなの、酷い…!)
ぼくのホットケーキはどうなるの、と思ったけれど。
夢の朝御飯が台無しだよ、と寝坊した自分を棚に上げて怒りそうだけど…。
(でも、ハーレイも…)
優しいものね、と浮かんだ考え。
母が寝坊した自分の代わりに、部屋の掃除をしてくれるように、ハーレイだって…。
(冷めるから食べた、って言っていたって…)
きっと自分が起きて行ったら、ホットケーキを新しく焼いてくれるのだろう。
「焼き立てが美味いに決まってるしな?」と、用意してあった材料を出して。
(うん、ハーレイなら、きっとそう…)
寝坊したって、ハーレイはきっと叱らない。
ホットケーキを新しく焼いて、「食えよ?」と渡してくれる筈。
きっとそうだから、ハーレイが来たら訊いてみようか。
「寝坊したって大丈夫?」と。
今朝、本当に寝坊したことは言わないで。
「もしもだよ?」と、笑みを浮かべて、「ぼくは寝坊をしたっていい?」と…。
寝坊したって・了
※休日の朝に寝坊してしまったブルー君。朝御飯も要らない、と大慌てですけど…。
ハーレイ先生と一緒に暮らすようになっても、寝坊するかも。きっと許して貰えますよねv