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キスが必要

「えーっと…。ハーレイ?」
 君に頼みがあるんだけれど、とハーレイを見詰めた小さなブルー。
 テーブルを挟んで向かい合わせで、お茶の時間の最中に。
 庭の白いテーブルと椅子とは違って、ブルーの部屋で。
「なんだ、キスならお断りだぞ?」
 そいつは絶対駄目だからな、と睨んだハーレイ。
 チビの恋人は、何かと言えばキスを強請るから。
 「俺は子供にキスはしない」と言っているのに、聞きもしないで。
「そのキスだけれど…」
 ぼくが子供だから駄目なんだろう、とブルーの瞳に真剣な色。
 「でも、今のぼくは子供じゃないんだから」と。


「なんだって?」
 何処から見たって子供じゃないか、とハーレイが眺めた小さな恋人。
 少しも大きくなっていないし、顔も身体も子供そのもの。
 十四歳のブルーが其処にいるだけで、大人のブルーは何処にもいない。
「…分からないかな、ぼくだってことが」
 君のブルーだ、と揺れる瞳の赤。
 「帰って来たよ」と、「心は元の通りだから」と。
「ほほう…? 中身は子供じゃないんだな?」
 育ったのか、とハーレイが訊けば、「そう」と大きく頷くブルー。
「だからね…。君に協力して欲しい」
 今のままだと、ぼくは子供のままだから…、とブルーが口にしたこと。
 「前と同じに育つためには、君の協力が必要なんだ」と。
「協力だって?」
「そうだ。でないと、永遠に元に戻れない」
 呪いにかかってしまったから、とブルーの瞳は悲しげで…。


 ブルーが言うには、昨夜、いきなり育ったらしい。
 チビだったのが、前の背丈と同じ姿に。
 ところが喜んだのも束の間、現れたのが悪い魔女。
 魔法の杖がサッと振られて、ブルーにかかってしまった呪い。
 伸びた背丈はみるみる縮んで、チビの姿に逆戻り。
 心は大人になっているのに、身体だけが子供に戻ったという。
「本当なんだよ、呪いを解くには真実の愛が必要で…」
 キスしてくれたら元に戻れる、とブルーは至って真面目だけれど。
 恋人のキスが必要なのだと、呪いを解いて、と頼むのだけれど。
「なるほどなあ…。よくあるお伽話だな」
 キスで呪いが解けるというのは、とハーレイの唇に浮かんだ笑み。
 「そいつは素敵だ」と、「俺のブルーに戻るんだな?」と。
「うん、そう! だからね…」
 ぼくにキスして、と輝いた顔。
 キスを頂戴と、そしたら前とおんなじ姿に戻るんだから、と。


 大喜びでキスを強請るブルーは、どう眺めても子供の顔で。
 ついさっきまでの、大人びた口調も消えているから、笑ったハーレイ。
「おいおい、尻尾が見えているぞ」と。
「えっ、尻尾?」
 何処に、とキョロキョロしているブルー。「ホントに尻尾?」と。
「ああ、立派なのが生えてるな。見えないか?」
「どんなの? どんな尻尾が生えたっていうの?」
 尻尾、何処にも無いんだけれど、と探すブルーは本当に子供。
 そんな具合だから、ハーレイの笑いは止まらない。
 「お前、呪いはどうなったんだ?」と。
 「嘘をついてもバレるからな」と、「だから尻尾が見えるんだ」と…。



        キスが必要・了





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