(明日はブルーに会えるってな)
そして一日一緒なんだ、とハーレイが唇に浮かべた笑み。
明日は土曜だという日の夜に。
いつもの書斎で、コーヒー片手に。
愛おしい人に会える週末、それが明日から。
明日も明後日も、ブルーと二人。
厳密に言えば、二人きりではないけれど。
ブルーの家には両親がいるし、夕食は揃って囲むテーブル。
けれども昼間はブルーと二人で、ゆったり過ごせるのが週末。
ブルーの部屋でお茶を飲んだり、庭のテーブルと椅子に出掛けたり。
(明日もあそこでデートかもなあ…)
庭で一番大きな木の下、其処に据えられた白いテーブルと椅子。
初めてのデートをした場所だから、今もブルーのお気に入り。
最初はキャンプ用の椅子とテーブルだったのだけれど。
この家で教え子たちと使うもの、それを運んで行ったのだけれど。
(今じゃすっかり、ブルーのための場所で…)
白いテーブルと椅子は、ブルーの父が買ったもの。
「いつも運んで来て頂くのは大変ですから」と。
そうやって其処に置かれたテーブルと椅子。
天気のいい日は「庭に行こうよ」と強請る恋人。
「あそこがいいよ」と、「初めてのデートの思い出の場所」と。
明日は晴れるという予報だから、きっと庭でのお茶だろう。
ブルーと一日一緒に過ごして、夜は両親も交えた夕食。
食後のお茶が済んだ後には、別れの時が来るけれど。
「またな」とブルーに告げて帰るしかないのだけれど…。
(日曜日にまた会えるんだしな?)
ほんの少しのお別れなんだ、と分かっているから寂しくはない。
次の日もブルーと一緒なのだし、幸せな日になる筈だから。
明日が楽しみな金曜の夜。
週末に用が入っていない限りは、心が弾む金曜の夜。
「明日はブルーに会える日なんだ」と、愛おしい人を思い浮かべて。
会ったら何を話そうかと。
ブルーがキスを強請って来たなら、どんなお仕置きをしようかと。
(額を指で弾いてやるか、頭を軽くコツンとやるか…)
どっちにしたって懲りないんだが、と分かっているから微笑ましい。
一人前の恋人気取りの、チビのブルーが。
十四歳にしかならない恋人、その愛らしさが。
(…あいつがいるっていうだけで…)
俺の人生、薔薇色なんだ、と何度思ったか分からない。
そう、今だって。
キスも出来ない恋人でも。
結婚出来る十八歳さえ、まだまだ遠いチビのブルーでも。
グンと彩りを増した人生、輝きに満ちた週末の時間。
チビのブルーがいるだけで。
二人でお茶を飲めるというだけ、話して食事が出来るだけでも。
キスの一つも交わせなくても。
(なんたって、俺のブルーだしな?)
前の生から愛し続けた、愛おしい人。
遠く遥かな時の彼方で、一度は失くしてしまった人。
その人と再び巡り会えた上、今度は一緒に生きてゆけるから。
今は小さなブルーだけれども、いつか大きく育ったら。
(…前のあいつと、そっくり同じ姿になったら…)
夢のような日々がやって来る。
二人一緒に暮らせる時が。
週末でなくても、いつもブルーと二人きりの日々。
仕事に出掛ける時間以外は、ブルーと暮らしてゆけるのだから。
いつか結婚するブルー。
前の生では出来なかったこと、二人の恋を明かすこと。
それが今度は叶うのだから、もう幸せでたまらない。
今はまだチビのブルーでも。
キスも出来ないようなブルーでも、こうして巡り会えたのだから。
前の自分の恋の続きを、しっかりと掴み取ったのだから。
(俺は幸せ者だよなあ…)
宇宙はとても広いけれども、きっと多くはないだろう。
今の自分とブルーのように、生まれ変わってまた巡り会うことは。
この人だった、と分かる相手と再び恋をすることは。
だから余計に嬉しくなる。
なんと幸せな人生なのかと、自分は幸せ者なのかと。
チビのブルーでも、前の自分が愛したブルー。
その魂は同じなのだし、前のブルーのままだから。
…ちょっぴり弱いブルーだけれど。
ソルジャー・ブルーと呼ばれた頃とは、まるで比較にならないけれど。
(すぐ泣いちまうし、メギドの夢は怖がるし…)
とても伝説の大英雄とは思えないのが、小さなブルー。
けれども、それも愛おしい。
前と同じに強かったならば、包んで守ってやれないから。
「俺が守る」と言ってみたって、その必要は無いのだから。
いくら平和な時代だとはいえ、守るチャンスは幾らでもある。
「いいか、しっかり掴まってろよ?」と、急流下りの船に乗るとか。
デートの途中で激しい雨が降って来たなら、「入れ」とシールドで包むとか。
今のブルーはサイオンを上手く扱えないから。
雨が降ったら、傘が無ければ頭から濡れてしまうのだから。
(…守ってやれるチャンスは山ほど…)
俺が守る、と心に誓う。
今度こそブルーを守ってやろうと、どんな小さなことからだって、と。
それが出来るのも、ブルーに巡り会えたから。
まだまだ小さな恋人だけれど、前の生から愛した人。
その人と一緒に生きてゆけるから、この人生は素晴らしい。
今でさえ、もう薔薇色だから。
いつかブルーが育った時には、もっと輝きを増すのだから。
(何もかも、あいつがいるからで…)
チビのあいつでも凄い値打ちが、と愛おしく思うブルーのこと。
本当に俺の宝物だと、まさに人生の宝だと。
最高の宝を掘り当てたんだと、俺は誰よりも幸せ者だ、と。
(…チビでも、立派に宝物で…)
大判小判がザックザクだ、と頭に描いた古典の世界。
ブルーはそれよりも凄い宝で、何にも代えられない宝。
誰にも譲り渡しはしないし、生涯、大切に守り続ける宝物。
前の生では失くした分まで、今度は決して失くさないように。
ブルーの手を二度と離すことなく、何処へも行かせないように。
(メギドなんかは、無い時代だがな…)
それでも俺が守るんだから、と思った所で気付いたこと。
小さなブルーは確かに今もいるのだけれども、もしもブルーがいなかったら、と。
前の自分の記憶が戻って、其処で出会えていなかったら、と。
(…どんなあいつでも、俺は必ず見付け出せるし…)
見付けてみせると思うけれども、それはブルーがいた時のこと。
今の自分と同じ世界に、地球でなくても宇宙の何処かに。
それならば、きっとブルーに会える。
いつか必ず見付けてみせるし、どんなブルーでも恋をする。
人でなくても、それこそ猫や小鳥でも。
「俺のブルーだ」と連れて帰って、一緒に生きて。
猫や小鳥は喋れなくても、きっと心は通い合うから。
ブルーは見詰めてくれるだろうし、自分もブルーの想いに応える。
何処までも共に生きてゆこうと、もう離れないと。
(…しかしだな…)
本当に一人だったなら。
ある日、記憶がぽっかり戻って、けれど見付からないブルー。
休みの度に探し回っても、それこそ広告を出したって。
「こういう人を知りませんか」と、遠い星に住む友人たちまで動員して。
もちろん街を歩く時には、キョロキョロと探す自分の周り。
忘れようもない愛おしい人、その人が歩いていないかと。
ブルーに記憶は無かったとしても、もしや歩いていはしないかと。
見れば一目で分かるから。
きっと駆け寄って、「ブルー!」と呼び止めるだろうから。
そうすれば戻る、ブルーの記憶。
戻る筈だと思うけれども、あくまでブルーに会えた時の話。
この地球の上か、宇宙の何処かで。
前の生ではブルーだった誰か、もしくは生まれ変わりの何か。
猫や小鳥でも気にしないけれど、ブルーであればいいのだけれど。
(……あいつもいるとは限らないんだ……)
今のブルーとの出会いが奇跡で、きっと神の手が働いた結果。
それが無ければ、ブルーには会えなかっただろう。
何かのはずみに、前の自分が誰だったのかを思い出しても。
ソルジャー・ブルーと呼ばれていた人、その人と恋をしていたのだと気付いても。
(…俺だけしか、此処にいなかったなら…)
どんなに懸命に探し回っても、ブルーに会えなかったなら。
ブルーが何処にもいなかったなら…。
(…きっと、人生、真っ暗なんだ…)
今の薔薇色とは違って闇。
いないブルーを探し続けて、自分の生は終わるのだろう。
もしも一人で生まれ変わったら。
ブルーに会えなかったなら。
それを思うと、本当に奇跡。
明日は小さなブルーと過ごせて、いつかはブルーと二人で暮らす。
もし一人なら、一人きりなら、巡って来なかっただろう幸せ。
(…俺は幸せ者なんだな…)
本当にな、と噛み締めた今の自分の幸せ。
もし一人なら、きっと真っ暗だったろうから。
生涯、ブルーを探し続けて、闇の中を歩いていただろうから…。
もし一人なら・了
※明日はブルーに会える日だから、と幸せ一杯のハーレイ先生。週末だぞ、と。
けれど、そのブルー君が何処にもいなかったなら…。二人一緒で良かったですよねv