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恋人らしく

「よう、ブルー」
 元気にしてたか、とブルーの部屋に入ったハーレイ。
 いつもと同じに、ブルーの母に案内されて。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで座ったけれど。
 ブルーの母は「ごゆっくりどうぞ」と去ったのだけれど…。
「…なに、その挨拶?」
 酷い、と頬っぺたを膨らませたブルー。
 十四歳にしかならない小さな恋人、それが見事に膨れっ面。
「おい、酷いって…。俺の何処がだ?」
 ちゃんと挨拶しただろうが、と顔を覗き込んだら、返った言葉。
 「どの辺が?」と赤い瞳で睨み付けて。
「ぼく、ハーレイの恋人だよね?」
 チビだけれど、とブルーはおかんむりで。
 もうプンスカと怒ってしまって、本当に損ねているらしい機嫌。
 きちんと挨拶してやったのに。
 何も間違えてはいない筈だし、「ブルー」と名前も呼んでやったのに。


 なんとも解せない、恋人の怒り。
 何処が悪かったのか、まるで分からない、この状況。
 いつも通りに「よう」と挨拶、それから椅子に腰掛けたのに。
(どうも分からん…)
 こんな時には訊くに限る、と考えたから問い掛けた。
 まだ怒っている恋人に。
 不機嫌そうなチビのブルーに、「俺が何をした?」と。
「挨拶を間違えちゃいないと思うが、いったい何処が悪かったんだ?」
 そう尋ねたら、「全部だよ!」と怒りの炎が燃え上がった瞳。
 赤い瞳は炎さながら、焼き尽くされてしまいそうな色。
「分かってないわけ、誰に挨拶してるのか!」
 恋人なんだよ、いくらチビでも、ぼくは恋人!
 それに昨日も会っていないし、その前だって…。
 会えたの、ずいぶん久しぶりなのに、「よう」って、なあに!?


 有り得ないよ、と怒ったブルー。
 「もっと恋人らしくして」と。
 何日も会えずに過ごした分だけ、愛情をこめて挨拶して、と。
「会いたかったとか、愛してるとか…。色々あるでしょ?」
 ママの前では「よう」でいいけど、その後だよ!
 抱き締めてくれてもいい筈なのに、と怒る恋人は御不満で。
 「恋人らしく」と、「会いたかった」と、そういう甘い言葉を希望。
 気持ちは確かに分かるけれども、そのブルー。
 チビの恋人の顔を最後に見たのは…。
(…今日の放課後だぞ?)
 下校するブルーとバッタリ出会った、グラウンドの端。
 「今、帰りか?」と呼び止めてやって、「気を付けてな」とも。
 「はい!」と元気に返事したブルー、ほんの数時間前のこと。
 数時間と言っても三時間も無いし、二時間に届くか届かないか。
 その前の日も、その前だって、学校では会っていたわけで…。


(…恋人同士で会える時間は、久しぶりかもしれないが…)
 なんだって恋人らしくせにゃならんのだ、と思う挨拶。
 チビのブルーには「よう」が似合いで、「愛している」は早すぎる。
 「会いたかった」も、会っているのに使う言葉でもないものだから…。
「おい、ブルー」
 気に入らないなら俺は帰るが、と椅子を引いたら、慌てたブルー。
 「帰らないで!」とアタフタするから、ニッと笑った。
 「なら、挨拶の件は無しだな」と。
 恋人らしくしようじゃないかと、二人でお茶だ、と。
 チビのお前にはそれが似合いだと、背伸びするなら帰っちまうぞ、と。
 俺とゆっくり過ごしたいなら、膨れっ面はやめるんだな、と…。



         恋人らしく・了



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