「ねえ、ハーレイは勇気がある方?」
前じゃなくって今のハーレイ、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人で過ごす休日に。
ブルーの部屋のテーブルを挟んで、向かい合わせに腰掛けて。
「勇気なあ…。どうなんだろうな、あるとは思うが」
前の俺と比べてみるんだったら、腰抜けなのかもしれないが…。
とてもじゃないが、前みたいな真似は出来ないし…。
大勢の仲間が乗っている船のキャプテンなんかは、ちょっと無理だな。
今の俺には荷が重すぎる、と答えたハーレイ。
そういう意味では、多分、腰抜けなんだろう、と。
「えっと…。ぼくもおんなじだよ、弱虫で腰抜け」
メギドなんかに行けやしないし、とブルーは肩を竦めてみせた。
今のぼくはホントに弱虫だもの、と。
「なるほどな。お互い、腰抜けになっちまった、と…」
前の俺たちが凄すぎたんだな、お互いにな。
暫く続いた腰抜け談義。
前の自分たちが凄すぎたのだと、桁外れだと。
お互い、今の自分の腰抜けっぷりを笑って、笑い転げて。
それも平和な時代だからだ、と平和ボケ出来る幸せに酔って…。
「俺の勇気も、今の時代に見合ったヤツになっちまったな」
柔道なんかをやっている分、普通よりは勇気があるんだろうが…。
エイッと飛び込む勇気が無ければ、水泳だって出来ないしな?
その程度だな、と説明したら、頷いたブルー。
「ぼくが思った通りかも…。ハーレイ、今も勇気が一杯」
前のハーレイには敵わないけど、それでも沢山。
決まりを破ったこともあるでしょ、子供の頃には?
此処で遊んじゃいけません、って書いてあっても遊ぶとか。
「うむ。その手の話は山ほどあるな」
釣りは禁止の池で釣ってだ、バレたら急いで逃げたとか…。
登っちゃ駄目だ、と書いてある木に登るとか。
お前は、やっちゃいないだろうな、と微笑んで見詰めた小さな恋人。
そんな勇気は無さそうだし、と。
「うん…。でも、ハーレイは凄かったんだね」
子供の頃でも勇気が一杯。今だと、もっと増えてそうだよ。
「そりゃまあ、なあ…? 大人なんだし…」
ガキの頃よりも腰抜けになりはしないさ、俺も。
そうは言っても、前の俺には勝てないがな、と返したら。
「だけど、勇気はあるんでしょ?」
見せて欲しいな、ハーレイの勇気。…今のハーレイ。
「勇気って…。勇気は目には見えないが?」
「ううん、見えるよ。ハーレイが勇気を出しさえすれば」
決まりを破って遊ぶ勇気を出すのと同じで。
「はあ?」
「ちょっと決まりを破るだけ! 勇気を出して!」
ぼくにキスして、と煌めく瞳。
「唇へのキスは駄目なんでしょ?」と、勇気の出番、と。
「おい、お前…!」
それは勇気が違うだろうが、と睨んでやったチビの恋人。
お前にキスするくらいだったら、俺は腰抜けのままでいい、と。
「…腰抜けって…。ハーレイ、そんな腰抜けでいいの?」
「ああ、かまわん。腰抜けだろうが、臆病者だと笑われようがな」
駄目なものは駄目だ、とコツンと小突いたブルーの頭。
決まりは決まりで、勇気とは別。
もしも破るのが勇気だったら、俺は世界一の腰抜けでいい、と。
チビのお前にキスはしないと、腰抜けの俺で充分だと…。
勇気と腰抜け・了