(運命の出会いかあ…)
ホントにあるよね、と小さなブルーが考えたこと。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は訪ねて来てくれなかった、前の生から愛した人。
学校で挨拶しただけだった、大切な恋人のハーレイ。
こうして再び巡り会えたから、きっと運命なのだと思う。
前の自分たちが生きた時代から、長い長い時が流れた地球。
青く蘇った水の星の上に、ハーレイと生まれ変わって来たから。
再会して直ぐに、「ハーレイなんだ」と分かったから。
(聖痕、とっても痛かったけど…)
その痛みさえも愛おしいほど。
大量の鮮血が噴き出した聖痕、それがハーレイを連れて来たから。
自分とハーレイの前の生の記憶、それを戻してくれたから。
(あれって絶対、運命の出会い…)
そうでなければ何だろう。
もう一度、巡り会えたこと。
新しい身体と命を貰って、またハーレイと恋をしていること。
運命の出会いはあるのだと思う、今日の新聞で目にした記事。
(誰にでも、運命の相手がいるって…)
いつか必ず巡り会える人。
共に生きたいと思う人。
もっとも、そうだと気付くかどうかは運次第。
気付かなかったら、ただ出会うだけ。
出会って、そして別れてゆくだけ、二人で人生を歩む代わりに。
違う人と出会って恋をするとか、恋はしないで生きてゆくとか。
それもまた、その人の運命。
巡り会えるように出来ている人、その人と生きてゆくかどうかは。
そう書いてあった運命の出会い。
誰にでもあると、気付くかどうかは運次第だと。
(信じない人もいるだろうけど…)
本物の運命の出会いもあるよ、と重ねた自分たちの恋。
前の生から一緒だから。
生まれ変わっても、またハーレイと出会ったから。
(…前のぼくたちも、きっと運命…)
そういう出会いをしたのだと思う。
巡り会った場所は、素敵な場所ではなかったけれど。
過酷な人体実験を繰り返された末に、星ごと滅ぼされそうになったアルタミラ。
地獄だったとしか言えないけれども、其処でハーレイと出会ったから。
そのハーレイと恋をしたから、あの出会いだって、きっと運命。
二人、幸せに生きたから。
白いシャングリラで幸せな時を、満ち足りた時を過ごしたから。
最後は離れてしまったけれど。
前の自分が手を離したから、ハーレイは側にいられなかった。
命が潰える瞬間に。
前の自分が、死へと旅立つその瞬間に。
(…右手、とっても冷たかったけど…)
ハーレイの温もりを失くしてしまって、凍えた右手。
前の自分は泣きながら死んだ、「ハーレイには二度と会えない」と。
絆が切れてしまったからと、ハーレイの温もりを失くしたからと。
深い悲しみと絶望と孤独、その中で死んでいったのに。
泣きじゃくりながら命尽きたのに、気付けば青い地球に来ていた。
そしてハーレイの腕までがあった、直ぐ側に。
聖痕の痛みで薄れてゆく意識、けれど感じたハーレイの存在。
また会えたのだと、「ハーレイなんだ」と。
今度の出会いが二度目の出会い。
運命の糸に引き寄せられて。
もう一度、ハーレイとしてゆける恋。
今度の恋は前と違って、ハッピーエンドを迎えられる恋。
誰にも隠さなくてもいいから、堂々と結婚出来るのだから。
二人一緒に手を繋ぎ合って、何処までも歩いてゆけるのだから。
(…前のぼくたちだと、それは無理…)
ソルジャーとキャプテン、互いの立場が邪魔をして。
結婚どころか、恋も許されない二人。
だから懸命に隠し続けた、本当に最後の最後まで。
生きて会えることはもう無いのだと、互いに分かっていた時でさえ。
(でも、また会えたよ…)
運命の糸が導いてくれて。
ハーレイの所へ繋がるようにと、きちんと二人を結んでくれて。
前の自分たちも、きっとそう。
アルタミラの地獄で巡り会えるよう、用意されていた運命の相手。
互いに互いを見付け合ったから、恋をして、長い長い時を過ごした。
白いシャングリラで、幸せに。
誰にも言えない恋だったけれど、それでも二人、幸せだった。
恋をして、恋が叶ったから。
引き裂く者は誰もいなくて、二人で生きてゆけたから。
(…誰も知らなかったから、文句は言われないものね…)
恋をするなとも、別れろとも。
会ってはならないと閉じ込められたり、見張られたりもしなかった。
それだけで充分だった恋。
誰にも言えない恋であっても。
見付かったならば、シャングリラ中が大騒ぎだったろう恋だったけれど。
(ぼくたちの恋、もしもバレてたら…)
どうなったろうか、あの恋は。
前のハーレイとの幸せな恋は、やはり壊れてしまったろうか。
皆に知られて、辛い思いをした末に。
ソルジャーとキャプテン、船を導く立場の二人が恋仲だとは、と白い目で見られ、噂をされて。
そうなっていたら、きっと耐えられない。
自分も、それにハーレイも。
どちらからともなく、別れの言葉を口にしたろう。
もうこれきりだと、もう会わないと。
きっと涙を流しながら。
こんな言葉を言いたくはないと、胸の中で血を流しながら。
(だけど、そうするより他に…)
道などありはしなかっただろう、あの船で生きてゆくのなら。
仲間たちを導くソルジャーとキャプテン、それぞれの務めを果たすのならば。
(…それ、捨てちゃったら駄目だよね…)
ハーレイと二人、何もかも捨てて逃げること。
白いシャングリラも船の仲間たちも、何もかもを捨てて。
船を捨てたら、生きてはゆけないのだけれど。
前の自分の強いサイオン、それがあっても無理なのだけれど。
(いつまでもシールドしていられないし…)
見付からないよう、人類の世界に隠れ続けることも出来ない。
逃げ出したならば、後は破滅が待っているだけ。
ハーレイも、それに前の自分も。
宇宙の何処かで命尽きるか、その前に殺されてしまうのか。
弱っていたなら、人類に狩られてしまうから。
そうならなくても、生きてゆく術を何も持ってはいないのだから。
船を離れてしまったら。
ミュウの箱舟、それを二人で後にしたなら。
捨てられる筈などなかった船。
生きてゆくにも、ミュウの未来を守るためにも。
けれど、ハーレイとの恋がかかっていたならば。
二人の仲を引き裂かれるか、なんとしてでも恋を守るか、それを選ばねばならなかったら…。
(……捨てられたかな?)
あの白い船を。
前の自分が守り続けた、ハーレイが舵を握った船を。
(全部捨てちゃって、ハーレイと二人…)
逃げられたろうか、死が待つと分かっている場所へ。
漆黒の宇宙や人類の世界、其処へ飛び出してゆけただろうか。
恋を選んで、ハーレイと二人。
別れの言葉を告げる代わりに、「一緒に逃げよう」と頼み込んで。
(…ハーレイなら、きっと…)
逃げてくれたという気がする。
そう言った自分を咎めはしないで、ただ穏やかな笑みを浮かべて。
「分かりました」と、「行きましょう」と。
二人で一緒に逃げた先には、死しかなくても。
死が待っていると知っていたって、ハーレイはきっと来てくれたろう。
前のハーレイの優しさは本物だったから。
恋も愛も深くて強い想いも、全部本物だったのだから。
(…ぼくの我儘、って分かっていても…)
ハーレイは怒らなかっただろう。
怒るどころか、こんな言葉もくれただろう。
「私もそうしたかったのです」と、「ですから、安心なさって下さい」と。
自分の意志でそうするのだから、何も心配は要らないと。
だから自分を責めなくていいと、思いは同じなのだから、と。
そうして二人、逃げ出した先で命尽きても。
人類に見付かって撃ち殺されても、きっと幸せだったろう。
恋を失くして、仲を引き裂かれて、泣きながら生きてゆくよりは。
辛い思いを胸に抱えて、船を守ってゆくよりは。
(そんなこと、したら駄目なんだけど…)
駄目だと自分で分かっていたって、止められないのが恋というもの。
失くすよりはと、必死になって。
命まで捨てて守り抜こうと、貫こうとするのが本物の恋。
遠い昔から、そういう恋人たちがいたから。
物語の世界にも、現実にだって。
(…前のぼくたち、そうしなくても済んだから…)
恋を知られずに隠し通せたから、青い地球まで来られたろうか。
務めを投げ出すことをしないで、ミュウの未来を守ったから。
ソルジャーとキャプテン、それぞれの場所で力の限りを尽くしたから。
(だから御褒美、貰えたのかな?)
また巡り会って、幸せな恋をするようにと。
今度はハッピーエンドの恋をと、二人、いつまでも幸せにと。
(今度もホントに運命だよね?)
ハーレイと二人、恋の続きを生きていること。
前の自分たちの恋の続きを、ハッピーエンドが待つ未来へと。
そう思ったら零れる笑み。
運命だよねと、前も今度もきっと運命、と。
ハーレイと二人なら、幸せだから。
互いが互いのためにいるから、何処までも二人、手を繋ぎ合ってゆくのだから…。
運命だよね・了
※ハーレイとは運命の恋人同士、と考えているブルー君。前も今度も運命だよね、と。
前の恋がもしもバレていたなら、本当に船を捨てたでしょうか。捨てなかった分、今は幸せv