(運命の出会いなあ…)
あるだろうな、とハーレイが思い浮かべた言葉。
ブルーの家には寄れなかった日、いつもの書斎でコーヒー片手に。
夕食の後に広げた新聞、それの何処かでチラと見掛けた。
広告だったか、記事の見出しか、目の端を掠めただけなのだけれど。
(まさに運命の出会いってヤツで…)
あいつと俺、と今の小さなブルーを想う。
前の生から愛した恋人、ソルジャー・ブルーの生まれ変わり。
自分も同じに生まれ変わりで、青い地球の上でまた巡り会えた。
これが運命の出会いでなければ、いったい何だと言うのだろう。
だからあるのだ、と言い切れる。
運命の出会いは本当にあるし、そうして始まる恋も確かに存在すると。
自分たちの恋がそうだから。
それに今度は、前と違ってハッピーエンドの恋になるから。
(チビのあいつが育ったら…)
結婚出来る年になったら、絵に描いたようなハッピーエンド。
お伽話の王子とお姫様のように、ブルーと挙げる結婚式。
それからはずっと二人で暮らして、もう離れない。
前のようには離れたりしない、何も二人を引き裂きはしない。
今は平和な時代だから。
ブルーはソルジャーと呼ばれはしないし、自分もキャプテンなどではなくて…。
(ただの古典の教師だってな)
なんとも自由で気楽な立場。
ブルーもただの教え子なのだし、卒業したって何も変わらない。
縛るものなど、もう無いから。
ブルーは自由で、何の役目もブルーを縛りはしないから。
また巡り会えた運命の恋人、今も愛する愛おしい人。
遠く遥かな時の彼方で恋をした人に、また恋をした。
ブルーの方でもそれは同じで、本当に運命の恋人同士。
きっと出会った時から運命。
今ではなくて、前の自分たちが。
ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイ、そう呼ばれていた自分たちが。
(…どんな出会いをしてたって…)
恋に落ちたのだと思う。
生まれ変わっても巡り会うほど、互いに惹かれているのだから。
互いが互いのために生まれて、こうして恋に落ちるのだから。
(まるで立場が違う二人でも…)
恋したろうな、と断言出来る。
前のブルーと自分の間に、どんな障害があろうとも。
皆が反対するような恋であっても、世界の全てを敵に回しても。
(あの時代でも、駆け落ちってヤツは…)
あっただろうか、と考えるけれど、分からない。
人類の世界の恋愛事情を知りはしないし、ミュウの世界では出来なかった駆け落ち。
シャングリラだけが世界の全てだったから。
閉ざされた世界だった箱舟、其処から出ては生きられないから。
(それでもだ…)
他には道が無いと言うなら、きっとブルーと逃げただろう。
未来など無いと分かっていても。
二人一緒に逃げた先には、死が待つだけの駆け落ちでも。
恋はそういうものだから。
まして運命の恋となったら、もう赤々と燃え盛るだけ。
儚い線香花火みたいに、一瞬で消えてしまっても。
恋の炎で互いの命を、燃やし尽くしてしまったとしても。
そうなっていても、きっと自分には無かった後悔。
ブルーの方でも、ほんの少しも。
恋のためにと逃げた途端に、二人一緒に死んでしまっても。
(…まるでロミオとジュリエットだな…)
悲恋ってヤツだ、と思うけれども、後悔はしない。
ブルーと一緒だったなら。
恋が叶うというのだったら、命だってきっと捨てられた。
(最後の最後に、俺は捨て損なっちまったが…)
ブルーを追わなかったから。
一人きりでメギドに行かせたから。
今でも悔やむくらいだけれども、あの時はあれがベストの選択。
キャプテンがシャングリラを捨ててしまったら、ブルーの願いが無駄になるから。
追って行ったら、ブルーは怒って、悲しみさえも覚えたろうから。
(…だから、あの時はあれでいいんだ…)
正しかったから、こうして巡り会えたのだろう。
もう一度、恋人同士として。
新しい身体と命を貰って、今度こそ二人で生きてゆくために。
(しかしだな…)
前の自分とブルーとの恋、それが叶わなかったなら。
どんなに互いに惹かれ合っても、シャングリラでは成就しなかったなら。
(…俺もブルーも、捨てちまったかもな…)
自分の命も、シャングリラも。
ミュウの未来も何もかも捨てて、二人で逃げていたかもしれない。
船の外では生きられなくても。
二人とも死ぬと分かっていたって、それを互いに承知の上で。
幸いなことに、叶った恋。
誰にも言えずに隠したけれども、二人、幸せな恋をしていた。
その幸せがあったからこそ、ブルーの手を離せたのだろう。
死にに行くのだと分かっていても。
きっとブルーは帰って来ないと、伝えられた言葉で気付いていても。
(恋人同士だったんだしな?)
前のブルーが深い眠りに就いた後にも、恋をしたまま。
ブルーの眠りを見守ることしか出来なくなっても、何度も唇に落としていたキス。
二人の恋は叶っていたから、とうに絆があったから。
互いが互いのためにいるのだと、他の誰にも恋はしないと。
だから離せたブルーの手。
ブルーの命が尽きてしまっても、恋は壊れはしないから。
変わらずに愛し続けるから。
(…そうは思っても、厳しかったが…)
ブルーがいなくなった後。
前のブルーを失くした後には、まるで自分は生ける屍。
それほどの恋をしていたのだから、恋を叶えるためならば…。
(やっぱり、全部捨てられたろうな)
白いシャングリラも、ミュウの未来も。
自分の命も、何もかもを。
それ以外に道が無いのなら。
ブルーとの恋が叶わないなら、手に手を取って逃げてゆくだけ。
待つものが死でも。
恋の炎を燃やし尽くして、命まで尽きてしまっても。
(本当にロミオとジュリエットだな…)
敵同士の家に生まれた恋人、そういう二人だったっけな、と思ったら。
前の自分たちの恋よりもずっと、障害の多い恋だったんだ、と考えてみたら。
(……俺たちだって……)
もしかしたら、そういう出会いになっていたかもしれない。
あの時代にはミュウと人類、二つの種族がいたのだから。
たまたま二人ともミュウだっただけで、違うことだって充分、有り得た。
ミュウと人類、相容れない種族に生まれてしまって。
どう転がっても、叶わない恋に落ちてしまって。
(…もしも、あいつがミュウだったなら…)
そして自分が人類だったら、どんな出会いになったろう。
きっとアルタミラで出会うのだろうし、ブルーの方は実験動物。
自分は白衣の研究者だとか、ミュウの管理を任された職員だったとか。
(それでも、恋をしたんだろうな…)
自分もブルーも、叶わない恋を。
どんなに互いを求め合っても、手を繋ぐことも出来ない恋を。
(…そうなっていたら…)
やはり二人で逃げたのだろう、お互いの手を繋ぎ合うために。
愛おしい人と共にゆこうと、何処までも二人一緒だと。
(…逃げた途端に、撃ち殺されても…)
ブルーと一緒に処分されても、きっと後悔しなかった。
手を繋ぎ合って走った通路で、全てが終わってしまっても。
二人とも其処に倒れてしまって、何処へも行けずに終わったとしても。
(きっと満足だったんだ…)
笑みさえ浮かべて死んでいたろう、自分もブルーも。
もう離れないと、これからはずっと一緒だと。
何処までも二人で飛んでゆこうと、これからは二人なのだから、と。
悲しい恋に終わったとしても、どんな出会いをしていたとしても。
これだけはきっと変わらないこと、ブルーと恋に落ちること。
人類とミュウに分かれていても。
互いの手さえも握れないままで、見詰め合うことしか出来なくても。
(目だけでも恋は出来るんだ…)
俺たちなら、と今だから思う。
ブルーと二人で生まれ変わって、青い地球までやって来たから。
前の自分たちの恋の続きを、ハッピーエンドが待っている恋を二人で生きているのだから。
(どう考えても、運命だよな…)
あいつとの出会い、と時の彼方へ馳せてゆく思い。
たとえ悲恋に終わっていたって、きっと互いに恋に落ちたと。
死が待つだけの恋であっても、後悔などはしなかったと。
(そういう恋にはならなかったが…)
運命の恋には違いないぞ、と思うから自然と零れる笑み。
今度はハッピーエンドだと。
前の自分たちには出来なかったこと、二人の恋のハッピーエンド。
いつかブルーが大きくなったら、今度こそ二人、何処までも共にゆけるのだから…。
運命だよな・了
※ハーレイ先生とブルー君。本当に運命の出会いですけど、前の生でも同じこと。
人類とミュウに分かれていたって、恋に落ちただろう二人。運命の出会いはあるのですv