「ねえ、ハーレイ。…進歩がなければ駄目なんだよね?」
人間って、と首を傾げた小さなブルー。
進歩しなくちゃ駄目なんでしょ、と。
向かい合わせで座ったテーブル、いつものブルーの部屋の窓辺で。
「そうだな。人間、毎日が成長だ」
大事なことだな、とハーレイは大きく頷いた。
一歩一歩、前へ進むこと。
人生というのも歩くのと同じで、毎日、前へと進んでゆくもの。
たまに立ち止まったり、後戻りをしても、その分、前へと。
立ち止まっていても、何か得られるものだから。
後戻りしても、其処から何かを学ぶのだから。
授業中にも、そう言ったりする。
「しっかり前へと歩くんだぞ?」と。
退屈なように思える授業も、先人たちの知識を学ぶ時間。
それをしっかり身につけろと。
自分のものにしてしまえたなら、それだけ先へ進むのだから、と。
きっとブルーも、思い出したに違いない。
チビで少しも育たないけれど、中身は育っているのだと。
毎日が進歩で、育っていないわけではないと。
やっと分かってくれたのだな、と嬉しい気持ちになったものだから。
「お前も、ちゃんと成長してるか?」
進歩ってヤツをしているのか、と訊いてやったら、「うん」と返った。
「もちろんだよ」と。
「だって、進歩が大切なんでしょ?」
毎日、毎日、一歩ずつ前に進んでいかなきゃ。
ぼくの背、ちっとも伸びないけれども、それでも進歩しなくちゃね。
「偉いぞ、ブルー。やっぱりチビでも俺のブルーだ」
前のお前も、しっかりと前を向いてたが…。
どんな時でも、前に向かって歩いたもんだが、お前もそうだな。
進もうってことに気付いているなら、立派なもんだ。
俺が授業でいくら言っても、大抵のヤツらは聞いちゃいないし…。
聞いてないから、進歩もしない。
同じ失敗ばかりをしていて、まるで話にならないってな。
その点、お前は実に立派だ、と褒めてやったら、喜んだブルー。
「良かった」と、「進歩しなくちゃね」と。
「おんなじ毎日を繰り返すよりは、断然、進歩」
そうやって前に進むものでしょ、そうだよね?
「当然だよなあ、特にお前のような子供は」
俺の年でも、毎日が勉強とも言える。
色々と学ぶことも多いし、「そうか」と目から鱗が落ちることだって。
大人の俺でもそうなんだから、子供のお前はぐんぐん伸びるぞ。
自分がその気になりさえすればだ、どんどん吸収出来るんだから。
進歩してゆくための栄養、毎日、山ほどあるんだからな。
「そうだよねえ? だから、しっかり進歩しなくちゃ」
少しずつでも、進むのが大事。
だからね、今日はほんのちょっぴり…。
この辺までかな、とブルーは椅子から立って来た。
「今日はここまで」と近付いた顔。
「お、おい、ブルー?」
何のつもりだ、と問い返したら。
「キスの練習…。いつかするでしょ?」
ぼくの背丈が前と同じになったら、キス。
今から少しずつ練習。進歩するのが大切だから。
毎日ほんのちょっぴりずつ、と瞬いた瞳。「だから練習」と。
「馬鹿野郎!」
そういうのは進歩とは言わん、とコツンと叩いたブルーの頭。
拳で軽く、痛くないように。
「お前はもっと成長しろ」と。
まるで少しも育っていないと、キスは駄目だと言っただろうが、と…。
進歩が大切・了