「ハーレイ、両替してくれる?」
小さなブルーに突然言われて、ハーレイは面食らったのだけど。
両替とはいったい何のことかと思ったけども。
「駄目?」と瞳を瞬かせたブルー。
ちょっと小銭が欲しいんだけど、と。
ブルーの部屋での、お茶の最中。いきなり出て来た両替のお願い。
(…両替で、小銭…)
ふむ、と考えてみたハーレイ。
ブルーは小銭が欲しいらしいし、それを踏まえての両替となれば…。
(普通だな?)
裏は無いな、と至った結論。
日頃から何かと策を巡らすのが小さなブルー。前の生から愛した恋人。
あの手この手でキスを強請ったり、誘惑しようとしてみたり。
だから警戒するのだけれども、両替に裏は無さそうだから。
よし、と頷いて取り出した財布。
中の小銭を確認してから、「どれだけだ?」とブルーに尋ねた。
いくら欲しいのか、両替するのはいくらなんだ、と。
「俺も持ち合わせはそんなに無いが…。少しくらいならな」
「ホント!?」
ブルーは急いで紙幣を一枚持って来た。
文庫本なら一冊買っても、充分にお釣りが来る紙幣。
それを「お願い」と渡されたから…。
「細かい方がいいのか、ブルー?」
「うん。細かいほど、ぼくは嬉しいかも…」
「運が良かったな。このくらいなら細かく出来るぞ」
一枚、二枚と順に数えてブルーに渡した。
「ほら」と、「手を出せ」と。
交換にブルーが寄越した紙幣。
そっちは一枚、財布に仕舞おうとしたのだけれど…。
(なんだか妙に嬉しそうだな?)
あいつ、と見詰めたブルーの顔。
小銭を財布に仕舞うでもなく、手のひらの上でつついている。
一枚、二枚と。
「おい、お前。両替は済んだぞ、早く仕舞ってこい」
財布の中へ、と促したら。
「分かってる。でも、これとこれは特別」
やっぱりぼくたちは運命の恋人、と妙な台詞が飛び出した。
ブルーの口から。
「運命の恋人?」
「そうだよ。見てよ、これとこれ。ほら!」
此処、とブルーが指差すコイン。
特に変わった所も無さそうなのに…。
「分からない?」とブルーが示した刻印。
こっちがぼくの生まれた年で…、とコインが製造された年。
もう一枚はハーレイが生まれた年のだよね、と。
コインのカップル、と微笑んだブルー。
ハーレイがこれを持っていたのは、運命の恋人同士だから、と。
「ほほう…。言われてみればそうかもなあ…」
偶然なんだが、と二枚のコインを見ていたら。
「違うよ、きっと偶然じゃないよ。ホントに運命」
だから運命の記念にキス、とブルーがコインを握り締めたから。
「そういう魂胆で両替なのか!」
騙された俺が馬鹿だった、とコツンと叩いたブルーの頭。
もちろんコインは取り上げたけれど、紙幣も返しておいたけれども。
(あいつに透視が出来るわけがないし…)
本当の所は運命かもな、という気がしないでもない。
偶然コインがカップルになるほど、本当に運命の恋人同士。
けれど、ブルーには言ってやらない。
きっと調子に乗るだろうから。
「じゃあ、キスして」と言うに決まっているのだから…。
両替をお願い・了