(今日もチビ扱い…)
ハーレイはホントに酷いんだから、と小さなブルーが零した溜息。
そのハーレイと過ごした土曜日の夜に、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ぼく、ハーレイの恋人なのに…)
どうしてキスも貰えないんだろう、と悲しい気持ち。
前の生から愛し続けた、大好きでたまらないハーレイ。
けれども、一度も貰えないキス。
唇へのキスは貰えないまま、どんなに強請っても駄目なまま。
今日も「キスして」と囁いたのに、キスの代わりにコツンと拳。
頭を軽く小突かれた。
「お前、まだまだチビだろうが」と、「俺は子供にキスはしないと言ったよな?」と。
ホントに酷い、と思う恋人。キスもくれないケチなハーレイ。
貰えるキスは頬と額だけ、唇にキスはしてくれない。
「俺のブルーだ」と言ってくれても、恋人扱いして貰えない。
今の自分はチビだから。
十四歳にしかならない子供で、ハーレイよりもずっと年下。
おまけにハーレイは学校の教師、チビの自分は教え子だから。
(…どう転んだって、ハーレイが上…)
ぼくより立場が強いんだもの、と悔しくてたまならいけれど。
逆転のチャンスは無いだろうかと思うけれども、あるわけがない。
この地球の上に生まれて来た時、ハーレイが先に生まれていたから。
一足どころか何年も先に、ちゃっかりと着いて育ったから。
(いくら頑張っても…)
追い越せないよ、と溜息しか出ないハーレイの年。
いつまで経っても自分はチビで、ハーレイの方が年上のまま。
いつか大きく育っても。前の自分とそっくり同じになれたとしても。
ハーレイの方が上なんだよね、と零れる溜息。
前の自分なら、ハーレイよりも上だったのに。
「チビ」と頭を小突かれたりはしなかったのに、と情けない気分。
どうして今は子供なのかと、チビに生まれてしまったろうかと。
(前のぼくだって、最初の間は…)
今の自分と同じにチビ。
ハーレイもチビだと思い込んだほど、姿も中身もチビだった。
けれども、本当は最初に発見されたミュウ。
船の誰よりも年上だったし、ハーレイよりも遥かに年上。
そして大きく育った後には、皆を導く立場のソルジャー。
こうと決めたら、ハーレイを説き伏せることだって。
それなのに今は上手く行かない、見掛け通りにチビだから。
どう頑張ってもチビの自分は、ハーレイに勝てはしないから。
(きっと、大きくなったって…)
ハーレイは今と変わらないまま、余裕たっぷりなのだろう。
無理難題を吹っ掛けてみても、鼻で笑っているのだろう。
「それで、お前はどうしたいんだ?」と。
大きくなってもチビはチビだと、もっとしっかり考えてみろと。
頭だってきっと、今と同じに小突かれる。
褐色の手でコツンと、痛くないように。
「痛いよ!」と叫んで抗議したって、「そうだったか?」と笑われるだけ。
力を入れたつもりは無いがと、軽く触っただけなんだが、と。
それでも痛いなら重傷なのだし、今日は大人しく寝てたらどうだ、と。
とても勝てそうにないハーレイ。
大きくなっても、前の自分と同じ姿に育っても。
まるで勝てない、と考えるほどに悔しい気分。
ハーレイの方が先に生まれて、自分よりもずっと年上だから。
前の自分だった頃のようにはいかないから。
(今もそうだけど、これから先も…)
負けっ放し、と肩を落とした。
ハーレイときたら、今の自分の父と変わらない年だから。
どう考えても勝てるわけがなくて、きっと一生、負けっ放しで。
(チビじゃなくなっても、チビ扱いで…)
何かと言えば、子供時代のことを持ち出されるのに違いない。
「お前、あの頃と変わらないよな」と、「やっぱりチビだ」と。
俺に勝とうなど百年早いと、悔しかったら出直して来いと。
年上に生まれてみたらどうだと、そしたらお前が勝てるかもな、と。
(…言いそうだものね…)
きっと言うんだ、と思い浮かべた恋人の顔。
「キスは駄目だ」と叱るハーレイ、なんともケチで酷い恋人。
この地球の上に先に生まれただけなのに。
自分よりも早く生まれ変わったというだけなのに、ハーレイの立場はずっと上。
年上な上に、教師だから。
チビの自分は、うんと年下の教え子だから。
誰が見たって、ハーレイの方が上だと答えるだろう関係。
いつまで経っても、きっと一生。
前の自分と同じ背丈に育ったとしても、ハーレイには上がらない頭。
いつも、いつだって年下だから。
自分が育てば、ハーレイも一歩先へと進んでしまうから。
これは困った、と思うけれども、負けっ放しな自分の未来。
ハーレイに頭が上がりはしなくて、いつもコツンと小突かれる頭。
(今とおんなじ…)
ケチのハーレイに叱られるのだろう、「キスは駄目だ」と。
「俺は子供にキスはしない」と、今日と同じに。
いつまでも勝てはしないから。
ハーレイの方がずっと年上で、自分はチビのままだから。
(結婚したって、負けっ放しで…)
勝てないんだよ、と零した所で気が付いた。
ハーレイと結婚出来る自分なら、とっくにチビではないだろう年。
前の自分と同じに育って、ハーレイとキスが出来る背丈になっている筈。
「キスは駄目だ」と言われはしなくて、強請れば貰えるだろうキス。
強請らなくても、きっと幾つも、唇へのキス。
ハーレイの方が年上でも。
少しも頭が上がらなくても、キスは幾つも降って来る。
顎を取られて、上向かされて。
鳶色の瞳で見詰められて。
(…ちゃんと、キス…)
して貰えるのだった、自分が大きく育ったら。
チビの子供ではなくなったなら。
ハーレイには負けっ放しのままでも、一生、頭が上がらなくても。
いつも年下のチビ扱いでも、そう扱われるというだけのこと。
「チビのくせに」と、今のハーレイと変わらない顔で。
頭をコツンと小突かれたりして、いつまで経っても子供扱い。
ずっと年下なのだから。
ハーレイの年を追い越せはしなくて、追い掛けることしか出来ないから。
(前のぼくだと…)
見た目はともかく、本当の年は船の誰よりも上だったから。
それに相応しく振舞わねば、と注意していたし、皆もそのように扱っていた。
もちろん、前のハーレイだって。
「お前」ではなくて「あなた」と呼んだし、話す時は敬語。
今のハーレイとはまるで違った。
「俺」と言う代わりに「私」だったハーレイ。
最初の頃には、そんな風ではなかったのに。
いつの間にやら、ハーレイは敬語。「お前」とも「俺」とも言わなくなって。
(前のハーレイも、好きだったけど…)
ケチで年上な今のハーレイ、その方がずっと嬉しい気がする。
普通に話してくれるから。
チビ扱いでも、ソルジャー扱いより素敵だから。
(だって、ハーレイ、普段通りで…)
言葉遣いを変えたりはしない。
特別扱いされるよりかは、チビ扱いの方が近しい距離。
一生、頭が上がらなくても。
ハーレイの年を追い越せないまま、追い掛けて歩いてゆくだけでも。
(ぼくがホントに年下だから…)
チビ扱いをするハーレイ。
俺の方がずっと年上だから、と余裕たっぷりでケチなハーレイ。
けれども、きっとその方がいい。
特別扱いされてしまって、ハーレイに「あなた」と呼ばれるよりも。
いつも敬語で話されるよりも、チビと呼ばれる方がいい。
額をコツンとやられても。
「キスは駄目だ」と叱られても。
今は悲しいチビ扱いだけれど、いつか幸せになれるのだろう。
ハーレイは敬語になりはしないし、一生、「お前」と呼んで貰える。
「俺のブルーだ」と言って貰えて、唇にキスもして貰って。
(うん、きっと…)
幸せなんだ、と思えてしまう。
少しも頭が上がらなくても、ハーレイが先を歩いていても。
我儘を言ったら、「チビのくせに」と叱られても。
(ハーレイだったら、そう言ったって…)
きっと願いを叶えてくれる。
今は駄目でも、ちゃんと大きくなったなら。
前の自分と同じに育って、ハーレイと二人で暮らし始めたら。
「仕方ないな」という顔をして。
チビのくせに、と苦笑いしても、きっと許して貰える我儘。
ハーレイの方が年上なのだし、我慢しなくてはいけない立場。
前の自分がそうだったように、どんな時でも。
(無茶は言ったりしないけど…)
ハーレイに甘えて、幾つも、幾つも強請ってみる。
我儘だってぶつけてみる。
一生、頭が上がらないけれど、その分、自分は強いから。
年下な分だけ、きっと優しくして貰えるから。
(…ホントのホントに、年下なんだし…)
ずっと年下に生まれたのだから、幸せな立場を生かしてみよう。
いつか大きくなったなら。見た目がチビではなくなったなら。
聞いて貰えるだろう我儘、困ったような顔をしたって。
「俺の方が年上だしな…」と、大袈裟な溜息をついたって。
(年下で良かった…)
ふふっ、と零れてしまった笑み。
一生、ハーレイよりも年下だけれど、きっと幸せに暮らしてゆける。
ハーレイの方が年上だから。年下の自分は、ハーレイを追い掛けて歩くのだから…。
年下で良かった・了
※ハーレイ先生よりも年下なのがブルー君。前とは立場がすっかり逆様。
一生、勝てないみたいですけど、それも幸せらしいです。我儘、言いたい放題ですしねv