「ねえ、ハーレイ。…ハーレイはお酒が大好きだよね?」
それからコーヒー、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
どっちも好きで、どっちも大好き、と。
「そうだが…。それがどうかしたか?」
お前はどちらも駄目なようだが、と答えるハーレイ。
ブルーの部屋で、テーブルを挟んで向かい合わせに腰掛けて。
「えっとね…。コーヒーは飲んじゃいけません、って言われたら?」
禁止されちゃったら、どうする、ハーレイ?
それにお酒も。どっちも絶対、飲んじゃ駄目、って。
「うーむ…。そいつは困るな、俺としては」
そういう状況に陥るとしたら、胃をやられたか何かだろうが…。
何が何でも急いで治すな、また飲めるように。
それまでは多少我慢もするが…、と苦い笑み。
きっと辛いぞと、毎日の楽しみが色褪せちまうな、と。
「やっぱりそう? 飲めないと辛い?」
ぼくはコーヒーもお酒も好きじゃないけど、好きだと辛いの?
毎日が楽しくなくなるくらいに。
「そりゃまあ…なあ? 酒はともかく、コーヒーは日々の友なんだ」
コーヒー無しではいられないってな、飲みたくなったらコーヒーだ。
あれを「駄目だ」と言われちまったら、さて、どうするか…。
治るまでの我慢だと分かっていたって、代わりの何か。
欲しくなるだろうな、健康的な代用品とか。
「そっか…。ハーレイでも我慢は辛いんだ…」
大好きだものね、コーヒーにお酒。
我慢って言われたら、代わりの何かを探すくらいに。
ハーレイは我慢強そうなのに…、と気の毒そうな顔の小さなブルー。
代わりの何かが欲しいくらいに、コーヒー抜きは辛いんだ、と。
「情けないようだが、俺の憩いのひと時だしなあ…」
コーヒーを飲んでホッと一息、さて、仕事だ、とか。
今日も一日いい日だったとか、あの一杯でググッと値打ちが出る。
同じように時間を過ごしていたって、コーヒーがあれば金色の時間。
そいつを駄目だと言われちまったら、たちまち輝きが失せるってな。
「好物って、そういうものだよね。…無いと大変」
いけません、って言われちゃったら、うんと辛いし…。
早く元通りになりたいな、って思うものだし、ぼくにも分かるよ。
毎日、我慢をさせられてるから。
「我慢って…。お前、何かを止められてるのか?」
聞いちゃいないが、それは辛そうだ。
俺でも我慢は辛いトコをだ、チビのお前が我慢となると…。
可哀相にな、とハーレイの手がブルーの頭をクシャリと撫でる。
早くそいつが治るといいなと、好物、早く食べたいよな、と。
「うん、そう…。それでね、ハーレイにお願いなんだけど…」
「なんだ? お前が我慢をしてるんだったら、お願いくらいは」
お安い御用だ、と胸を叩いたハーレイだけれど。
「んーと…。我慢は辛いし、ちょっとお願い。ぼくにキスして」
駄目って言ったの、ハーレイだから。「キスは駄目だ」って。
「こら、お前! 俺のコーヒーと一緒にするな!」
同情した俺が馬鹿だった、とブルーの頭にコツンと落とされた拳。
お前にキスはまだまだ早いと、当分、我慢していろと。
俺のコーヒーとは比較にならんと、我慢するのが当然なんだ、と…。
我慢は辛い・了