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君しかいない

(前のぼくなら、選び放題…)
 きっとそうだったんだろうな、と小さなブルーが考えたこと。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日も学校で会った恋人、前の生から愛したハーレイ。
 ずっと好きだったんだから、と思った途端に、ポンと頭に浮かんだ考え。
 前の自分はハーレイと恋をしていたけれども、選び放題だった筈、と。
 ミュウの長だったソルジャー・ブルー。
 今の小さな自分と違って、ちゃんと育って立派な大人。
 その気になったら、選び放題だったのだろう、と。
 自分と恋をする人を。
 前の自分と一緒に幸せに生きてくれる人を。
(もしも、ハーレイじゃなかったら…)
 恋を隠していただろうか、と一番に気になったポイントは其処。
 ハーレイと恋をしたのでなければ、前の自分は恋を隠さなくても良かったのでは、と。
(…だって、フィシス…)
 前の自分がミュウの女神と呼んでいたフィシス。
 機械が無から創った人間、けれども地球を抱いていた少女。
 どうしても欲しくて、彼女を攫った。
 前の自分のサイオンの一部を譲り渡して、ミュウに仕立てて。
 白いシャングリラの仲間たちにも、フィシスはミュウだと大嘘をついて。
 それは美しく育ったフィシス。
 船の仲間たちは、多分、勘違いをしていただろう。
 フィシスは選ばれた恋の相手で、前の自分の恋人なのだと。
 何かと特別扱いをしたし、皆もフィシスの占いに頼っていたのだから。
(きっと、ソルジャーに相応しいって…)
 そう思ったのに違いない。「フィシス様なら、よくお似合いだ」と。


 勘違いをした仲間たち。
 前の自分の恋人はフィシス、そんな具合に。
 けれど、何処からも来なかった苦情。
 口うるさいエラも咎めはしなかったのだし、フィシスだったら許された恋。
(前のぼくだって…)
 丁度いい隠れ蓑だから、と敢えて否定はしなかった。
 フィシスと恋をしているのならば、他に恋人はいない筈。
 ましてや同じ男のハーレイ、そちらに目を向けはしないだろうと。
(フィシスとだったら、隠さなくてもいい恋で…)
 堂々と二人並んで立てたし、フィシスの手を取って歩きもした。
 まるで恋人同士のように。
 何処から見たって、きっと恋人同士の二人だったろう、前の自分とフィシスなら。
(でも、誰も…)
 自分とフィシスを引き離そうとはしなかった。
 つまりは恋が許されたわけで、フィシスとだったら許された恋。
 前の自分も、距離を置こうとは考えないままで、特別扱いしていたフィシス。
 傍から見たら恋人なのに。
 恋人のために、あれこれと心を砕くソルジャーだったのに。
(天体の間をフィシスにあげて、服だって…)
 皆の制服とは違ったものを着せてあったのがフィシス。
 ミュウの女神に相応しいよう、特別にデザインさせたドレスを。
 首飾りだってフィシスだけだし、破格の待遇。
 恋人を贔屓しているソルジャー、そう見えたかもしれないのに。
(誰もなんにも言わなかったし、前のぼくだって…)
 やめようとしなかった特別扱い、フィシスは女神だったから。
 青い地球を抱くフィシスが欲しくて、船の仲間も騙したのだから。


 今から思えば、かなりの贔屓。
 フィシスのための特別扱い、恋に目が眩んでいたかのよう。
 けれども誰も咎めなかったし、前の自分も改めないまま。
 フィシスだったら、何も問題無かったから。
 似合いの二人に見えるだけのことで、船の未来まで左右はしない。
 フィシスのカードが告げる未来は、ただ読み取っていただけのこと。
 前の自分が「こう並べて」と指図などはしていないから。
 カードはフィシスが繰っていただけ、未来を読む力が導くままに。
 だから誰からも出なかった苦情、フィシスを特別扱いしても。
(フィシスが特別だったんだから…)
 彼女を連れて来た自分への言葉も、称賛ばかり。
 素晴らしい女神をよくぞ見付けたと、これでシャングリラもミュウの未来も安泰だと。
 フィシスが船に留まるのならば、彼女と恋をしていてもいい。
 それをフィシスが喜ぶのなら。
 特別扱いされていることも、ソルジャーの恋人であることも。
(ちっとも隠していないよね…?)
 船の仲間たちが勘違いをした、前の自分とフィシスの仲。
 恋人同士だと思っただろうに、許されていたのがフィシスとの恋。
 船の未来を左右したりはしないから。
 恋人同士の二人だとしても、誰も困りはしないから。
(自分が恋人になりたかったのに、っていうのは別だけど…)
 そういう人しか困らなかった。
 ソルジャーとキャプテンが恋をしたなら、大勢の人が困るのに。
 白いシャングリラを導くソルジャー、その舵を握っているキャプテン。
 船の頂点に立っていた二人、恋をすることは許されない。
 シャングリラを私物化しているのだ、と皆から非難されるから。
 たとえ会議を開いてみたって、「茶番だ」と言われるだろうから。
 全て二人で決めるのだろうと、会議なんかは開くだけ無駄、と。


 ハーレイの立ち位置が恋の障害、前の自分たちの恋はそうだった。
 皆に知れたら、船の未来が危うくなってしまう恋。
 フィシスだったら、誰も困りはしないのに。
 前の自分がせっせと特別扱いをしても、ミュウの女神にぞっこんでも。
(フィシスが恋人に見えても平気だったんだから…)
 違う誰かでも、きっと問題無かっただろう。
 恋をしていると皆に気付かれても、シャングリラ中に知れてしまっても。
 ついでに相手は選び放題、前の自分に夢中の女性は多かった。
 声を掛けたら、きっと誰でも恋の相手になったろう。
 ブリッジにいた、ヤエだって。
 長老だったエラやブラウも、選んでしまってかまわない。
 ただ長老だというだけなのだし、長老は他にもいるのだから。
(ゼルやヒルマンでも…)
 かまわないわけで、ノルディを相手に選んだっていい。
 誰を選んで恋をしたって、何処からもきっと苦情は来ない。
 フィシスでも許されたのだから。
 あれほどの贔屓と特別扱い、それでも文句は出なかったから。
(お互い、きちんと仕事してれば…)
 ヒルマンだろうが、ブラウだろうが、前の自分の恋の相手は選び放題。
 たった一人だけ、前のハーレイを除いては。
 シャングリラの舵を握るキャプテン、本当の恋人だったハーレイ。
 最後まで明かせないままで恋は終わって、誰も知らない。
 前のハーレイは日誌に書かなかったし、前の自分も何一つ残さなかったから。
 けして知られてはならない恋だと、二人で隠し続けたから。
 他の誰かと恋をしたなら、堂々とデート出来たのに。
 おまけに相手も選び放題、ゼルでもエラでも良かったのに。


(なんで、ハーレイを選んじゃったわけ…?)
 よりにもよって、一番厄介なハーレイに恋、と首を捻ったけれど。
 どうしてハーレイだったのだろう、と思うけれども、答えなんかがある筈もない。
 恋はそういうものだから。
 気付けばすっかり恋をしていて、囚われているものだから。
(前のぼくだって…)
 ハーレイを好きだと思った時には、とうに虜になっていた。
 他の誰かの方がいいとは、微塵も思いはしなかった。
 ハーレイに恋をしているのだから、他の者など目に入らない。
 皆には言えない恋であっても、明かせない恋だと気付いていても。
(恋しちゃったら、どうしようもないし…)
 それこそ失恋しない限りは、きっと壊れはしないのだろう。
 一緒にいたいと思う気持ちは、誰よりも好きだと惹かれる心は。
 たとえ失恋したとしたって、忘れることなど出来ないのだろう。
 その人に恋をしたことを。
 好きだと気付いて、胸をときめかせた日々を。
(…前のぼく、失恋しなかったから…)
 ハーレイと恋に落ちてしまった、誰にも言えない秘密の恋に。
 二人きりの時しかキスも出来ない、抱き合うことさえ出来ない恋に。
 前の自分は、恋人を選び放題だったのに。
 ハーレイ以外なら誰を選んでも、堂々と恋が出来たのに。
 皆が勘違いをしたフィシスだろうが、ヒルマンだろうが、ブラウだろうが。
 ゼルが好きだと告白したって、エラやノルディと激しい恋に落ちたって。
 もちろんヤエに恋してもいいし、もう本当に選び放題。
 ハーレイでさえなかったら。
 恋の相手に選びたいのが、キャプテンでさえなかったら…。


 けれど、選んでしまったハーレイ。
 一番厄介な立ち位置のキャプテン・ハーレイ、でも後悔はしなかった。
 他の人など、もう目に入りはしなかったから。
 きっと最初から見てもいなくて、ハーレイに恋をしていたから。
(…ハーレイだけしかいなかったんだよ…)
 いつも一緒にいたかった人は、側にいたいと願った人は。
 エラでもブラウでもヒルマンでも駄目で、ゼルもノルディも駄目だった。
 ハーレイ以外に恋はしなかったし、ハーレイだけが恋人だった。
 誰にも言えない恋だったけれど、別れのキスも出来ないままで終わったけれど。
 それでもハーレイを選んだことは、最期まで後悔してはいなくて…。
(もう会えない、って泣きじゃくりながら…)
 前の自分は死んでしまった。
 ハーレイの温もりを失くしてしまって、右手が凍えて冷たいと泣いて。
 けれど、終わらなかった恋。
 蘇った地球に生まれ変わって、またハーレイと出会ったから。
(今度もやっぱり、ハーレイだけ…)
 ぼくには君しかいないんだもの、と今の幸せを噛み締める。
 恋の相手が選び放題だった頃より、きっと自分は幸せだから。
 今度の恋は隠さなくてもいい恋なのだし、ハーレイを選んでも誰も咎めはしないから。
 それにとっくに選んだ恋。
 まだまだチビで小さいけれども、もう決めている未来のこと。
 いつか大きく育った時には、ハーレイと挙げる結婚式。
 前の生からの恋の続きは、ハッピーエンドの恋になる。
 たった一人だけの運命の人と、今度は幸せに生きてゆく。
 今度もハーレイを選ぶから。ハーレイだけしか選べないから、他の人に恋は出来ないから…。

 

        君しかいない・了


※前の自分の恋の相手は選び放題だったのでは、と今頃になって気付いたらしいブルー君。
 でも、選びたかったのはハーレイだけ。今度もやっぱり選ぶハーレイ、運命の恋人同士ですv





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