「ねえ、ハーレイ。…小鳥は親子でキスをするよね?」
毎日沢山、と小さなブルーがぶつけた質問。
何事なのか、とハーレイは首を傾げたけれども、親子でキス。
「羽繕いか?」
チビの間は親が見てやらないと駄目だし、そうなるだろうな。
羽根の手入れは大切だから、と答えたのに。
ブルーは「ううん」と首を横に振った。
「違うよ、キスだよ! 唇同士で、本物のキス!」
だってそうでしょ、雛は自分で餌を取りには行けないから…。
お母さんとか、お父さんとか、いつもキスしているじゃない!
でないと御飯が食べられないよ、小鳥の雛は。
「お前なあ…。あれはキスとは言わないぞ」
口移しと言うんだ、よく覚えておけ。
食べやすいように千切ったりして、雛用の餌を作るんだ、親は。
そいつを口から口へと渡してるだけだ、キスとはまるで違うんだ。
お前だからキスに見えるだけだ、と腕組みをして軽く睨んだ。
何かと言えばキスを強請るのがブルーだから。
唇へのキスは駄目だと言っているのに、懲りることなく。
キスが欲しいと思っているから、小鳥までそう見えるのだろう。
親がせっせと餌を運ぶのを、親子でキスをしているだなどと。
(まったく、こいつは…)
ロクなことを思い付かないヤツだ、と呆れていたら。
小さなブルーが「口移し?」と傾げた首。
小鳥のキスはキスじゃないの、と。
「少なくとも親子のヤツは違うな、絶対に」
鳥によっては、プロポーズに餌を渡す種類もいるそうだから…。
雄が差し出した餌を雌が受け取ったら、プロポーズ成立らしいから。
そういう時なら、キスになるかもしれないが…。
親から雛への餌は違うぞ、ちゃんと口移しと覚えておくんだな。
でないと何処かで大恥をかくぞ、その話で。
気を付けろよ、と小さなブルーに教えた知識。
小鳥の親子はキスをしないと、あれは口移しというものだと。
そうしたら…。
「分かった、小鳥が雛に餌をあげる時はキスじゃないんだね?」
「そうだ、しっかり覚えておけよ」
「うん、覚えた。…じゃあ、今度してね」
「はあ?」
何をするんだ、と見開いた瞳。
ブルーは愛くるしい笑みを浮かべてこう言った。
「口移しだよ、口移しはキスじゃないんでしょ?」
この次、ぼくが寝込んだ時には口移し。
ハーレイが作ってくれるスープを、口移しでぼくに食べさせてよ。
ぼくは弱っているんだから。
起き上がって野菜スープを飲むより、寝たままの方が楽なんだから。
「馬鹿野郎!」
誰がするか、と小突いた小さな銀色の頭。
お前の魂胆はそれだったのかと、眉間にグッと皺を刻んで。
起きられないなら、スプーンで口まで運んでやると。
それで飲めないなら飲まなくていいと、スープだけ置いて帰るからと。
起きられるようになったら食べろと、お前に口移しはまだ早い、と…。
小鳥のキス・了
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