(あのチビなあ…)
好きなんだがな、とハーレイが思い浮かべたブルーの顔。
夜の書斎で、コーヒー片手に。
今日も会って来た、小さなブルー。
前の生から愛した恋人、今も愛してやまないけれど。
(…なにしろチビだし…)
まだ十四歳にしかならないブルー。
何処から見ても子供でしかなくて、顔立ちだって子供の顔で。
恋と言ってもままごとのようで、抱き締めるくらいしか出来ない現状。
キスをするなら頬と額だけ、親愛のキスと変わらない。
それが気に入らないブルー。
何かと言えばキスを強請って、断られる度に膨れっ面。
そんなブルーが今日も膨れてこう言った。
「ハーレイ、ホントにぼくが好きなの?」と。
好きなようには思えないんだけど、と唇を尖らせていたブルー。
「ホントに好きならキスをするでしょ?」と、「したくなるでしょ?」と。
もちろん、それはブルーの作戦。
あわよくばとキスを強請る手の一つ、軽くいなしておいたけれども。
「分かった、キスだな?」と頬に落として、笑って帰って来たけれど。
プウッと膨れていたブルー。
「今日もやっぱり誤魔化された」と。
チビのブルーに「またな」と告げて来た別れ。
また来るから、と手を振った時は、笑顔だったブルー。
膨れっ面は消えてしまって、とうに御機嫌。
「また来てね」と懸命に手を振っていた。
夜だというのに、表の通りへ出て来てまで。
「早く入れよ?」と促すまで、庭に入ろうとせずに。
だからブルーは忘れて眠っているだろう。
「ホントにぼくが好きなの?」と問いを投げ掛けたことは。
よくあることだし、ブルーにとっては作戦の一つ。
自分の方でも、そうだと分かっているのだけれど。
(…本当に好きか、と訊かれたら…)
どうなんだかな、と今夜はウッカリ捕まった。
いつもは笑い飛ばす質問、「好きに決まっているだろう!」と。
小さなブルーにキスを落として、「もちろん好きだ」と答える問いに。
果たしてブルーを好きだろうかと、それは小さなブルーだろうかと。
前の自分の想いの続きで、そのまま「好きだ」と思っていないか、と。
チビではなかった、ソルジャー・ブルー。
前の自分が愛した人。
失くしてもなお愛し続けて、本当に最後の最後まで。
死の星だった地球の地の底、前の自分が命尽きるまで。
何度もキスを交わしたブルー。
愛を交わしたソルジャー・ブルー。
気高く美しかった恋人、長い時を共に暮らした人。
(ずっと、あいつと一緒に生きて…)
何処までも共に、と誓い続けた。
誰にも言えない恋だったけれど、最後まで恋を貫こうと。
愛おしい人と共にゆこうと、いつまでも二人一緒なのだと。
それなのに、離れてしまった手。
ブルーは自分と恋をしたけれど、その前にソルジャーだったから。
最後までソルジャーらしくあろうと、別れも告げずに飛び去ったブルー。
二度と戻って来られない場所へ、死が待つだけのメギドへと。
(俺はあいつを失くしちまって…)
独りぼっちで長い時を生きた。
白いシャングリラを地球へ運んでゆくために。
前のブルーが遺した言葉を、ブルーの願いを叶えるために。
長かった地球までの道と戦い。
たった一人で残された船で、それでも想い続けたブルー。
いつか必ず追ってゆこうと、愛おしい人の許へゆこうと。
ブルーが頼んで飛び去って行った、自分の役目を終えたなら。
ジョミーを支えて、いつか地球まで辿り着いたら。
ようやっと着いた、青くなかった約束の場所。
命あるものは棲めなかった地球。
全ては其処で終わってしまって、前の自分の命も潰えた。
地の底深くで、崩れ落ちて来た天井と瓦礫に押し潰されて。
けれど、苦痛は記憶に無い。
「これで行ける」と思っただけで。
やっとブルーの許にゆけると、愛おしい人の側にゆけると。
(…そこで記憶は途切れちまって…)
どうなったのかは覚えてもいない。
いつ魂が抜け出したのかも、それから何処へ向かったのかも。
ブルーに会えたか、会えなかったか、とても大切なそのことでさえも。
(…きっと会えたとは思うんだがなあ…)
そうでなければ、きっと出会えていないから。この地球の上で。
青く蘇った水の星の上で、再び出会えた愛おしい人。
少々、小さすぎたけど。
キスも出来ないチビの姿で、ブルーは戻って来たのだけれど。
それでも生きて巡り会えた人。
地球が蘇るほどに長い歳月、気が遠くなるような時が流れても切れなかった絆。
前の自分はきっとブルーに会えたのだろう。
此処に来るまで共に過ごして、二人で地球に来たのだろう。
前のブルーが焦がれ続けた、青い星の上に。
もう一度流れ始めた時。
また始まった、ブルーとの恋。
チビのブルーに恋をしているし、いつか伴侶に迎えるつもり。
十四歳にしかならないブルーが、結婚出来る年になったら。
前のブルーと同じに育って、キスを交わして、愛を交わせるようになったら。
(…俺は確かにあいつが好きで…)
今も、もちろん愛している。
まだ幼いから、子供だからキスをしないだけ。
どんなにブルーが強請っても。
「ハーレイのケチ!」と膨れられても。
けれども、今日のブルーの質問。
「ハーレイ、ホントにぼくを好きなの?」と尋ねたブルー。
しょっちゅうぶつけられる言葉で、本当にブルーの作戦だけれど。
「好きならキスをしたい筈だよ?」と持ってゆくのが狙いだけれど。
ウッカリ捕まってしまった問い。
「本当にぼくを好きなの?」と。
小さな自分のことが好きか、と問われたようにも聞こえるから。
「チビのぼくはどうでもいいんじゃないの?」と。
「大きく育ってキスが出来るぼくが好きなんじゃないの?」と。
そういうつもりでブルーは訊いてはいないけど。
まだ子供だけに、そう思うのなら、そのまま言葉にするだろうから。
「ハーレイはぼくが嫌いなんだ」と怒って、膨れて。
「ぼくがチビだから、嫌いなんでしょ?」と。
いわゆる、自分の考えすぎ。
小さなブルーが口にした言葉、深い意味など無い言葉。
それに捕まっても、ブルーはキョトンとするだけだろう。
「ハーレイ、ぼくが嫌いだったの?」と赤い瞳を真ん丸にして。
「小さなぼくのことが嫌い?」と、泣きそうな顔にもなるのだろう。
チビのブルーは、立派に恋人気取りだから。
「ぼくにキスして」と強請るくらいに、自信に溢れているのだから。
少し身体が小さいけれども、恋は出来ると。
キスも出来ると、愛だってきっと交わせるのだと。
(…俺が駄目だと言うから駄目で…)
そうでなければ出来る筈だと、チビのブルーは勘違い。
身体と同じに幼い心に、無垢な心に気付きもせずに。
小さな自分がそれをしたって、前のようにはいかないのだと知りもしないで。
(そういうチビが、あいつってわけで…)
前のブルーとは違ったブルー。
魂は同じブルーだけれども、姿の通りに小さなブルー。
遠く遥かな時の彼方で、初めて出会った頃と同じに。
アルタミラの地獄で出会った少年、子供だと信じていたブルー。
年上だなどと、気付きもせずに。
なにしろブルーは、姿の通りだったから。
成長を止めていた姿そのまま、中身は子供だったから。
(…あの時は恋をしてなくて、だ…)
前のブルーと恋をしたのは、ブルーが大きく育ってから。
小さかったブルーと恋はしなくて、キスも交わしていなかった。
つまりは今のチビのブルーが…。
(…俺が初めて恋をしたチビで…)
前の自分には無い経験。チビのブルーと恋をすること。
なるほど勝手が違うわけだ、と唇に浮かんだ苦笑い。
ブルーの方では、前の自分とそっくり同じな「ハーレイ」を見ているわけだけれども。
(俺が見てるのは、前のブルーと同じブルーでも…)
チビの頃のブルーなんだった、とコツンと軽く叩いた頭。
それでは答えが出るわけもない。
「ハーレイ、ホントにぼくが好きなの?」という質問を深く考えても。
思考の迷路に入り込んでも、前の自分の答えが出ては来ないから。
前の自分になったつもりで答えるのならば、「好きだ」の意味が変わるから。
小さなブルーも好きだったけれど…。
(恋じゃなくって、友情だな、うん)
後に恋へと育つ種なら、確かにあっただろうけれど。
一目惚れだと思うけれども、恋をしてから気が付いたこと。
前の自分はチビのブルーと恋はしなくて、キスしたいともまるで思いはしなかったから。
それを思えば、今の自分は…。
(あいつに恋をしているってな)
よし、とコーヒーを傾けた。
ウッカリ捕まってしまった質問、それの答えは得られたから。
たとえチビでも、キスが出来なくても、今のブルーにちゃんと恋しているのだから…。
チビでも好きだ・了
※ハーレイ先生がウッカリ捕まってしまったブルーの質問。深く考えすぎですけれど。
それでも答えは出たみたいですね、「チビでもブルーに恋をしている」とv
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