「あのね、ハーレイ。…ぼくはとっても大変なんだよ」
毎日ホントに大変だから、と小さなブルーがついた溜息。
ハーレイと向かい合わせで座って、テーブルを挟んで。
「ほほう…? いったい何処が大変なんだ」
そんな風には見えないんだが、と返したハーレイ。
病気ならともかく、そうではない日。
お前はいつも幸せそうだし、大変そうにはとても見えない、と。
「…分からないかな、ぼくを見てても?」
こんなのだよ、とブルーは自分を指差す。
見るからに大変そうじゃない、と。
「いや…? 今は少々膨れっ面だが…」
そいつも幸せの証拠だろうが、とハーレイがピンと弾いた額。
ブルーの額を指先でピンと。
何かと言えば、膨れっ面になるのがブルー。
十四歳の子供ならでは、不平不満が顔に出る。
プウッと頬っぺたを膨らませてみたり、愛らしい唇を尖らせたり。
可愛らしいから、見ていて飽きない。
膨れていようが、唇を尖らせていようが、ブルーはブルー。
前のブルーは見せなかった顔、それがなんとも嬉しくなる。
平和な時代になったからこそで、不平も不満も言っていい世界。
だからブルーは幸せな筈。
膨れっ面でも、頬っぺたがプウッと膨れていても。
それなのに何処が大変なのか、小さなブルーは。
「毎日ホントに大変だから」と力説されても、どう大変か分からない。
幸せ一杯の筈なのに。
膨れていたって、幸せだろうに。
分からないまま、じっと見ていたら。
膨れっ面を観察していたら、ブルーは「もうっ!」と不満そうな顔。
「ぼくはこんなに小さいのに!」
チビなんだよ、とブルーが広げた両手。
こんなに小さくて、前のぼくよりもずっと小さい、と。
「そのようだな。…それで?」
それがどうした、と先を促してやったら、もっと膨れたブルー。
「分からないわけ!? ぼくの大変さが!」
「…チビなだけだろうが、前のお前より」
見れば分かる、と返した途端に、「分かってないよ!」と尖った唇。
ハーレイはちっとも分かっていない、と。
「小さいから、何も出来ないんだよ!」
ハーレイといたってキスも出来ないし、その先だって!
本物の恋人同士にもなれやしなくて、ハーレイはぼくをチビ扱いで!
なんでもかんでも「駄目だ」って言って、ちっとも聞いてくれなくて!
「…ふむ…。それでお前は大変なんだ、と」
分かった、俺と一緒にいるのが問題なんだな、とニヤリと笑った。
ならば苦労をさせては悪いし、今日はサッサと帰るとするか、と。
「えっ? 帰るって…?」
赤い瞳が丸くなるけれど、かまわず席を立とうとする真似。
「お前、大変なんだろう? 毎日、毎日」
今日の所は楽をしてくれ、と椅子を引いたら、慌てたブルー。
「ぼく、大変じゃないから!」と。
これだから、とても愛らしい。
何かと言えば膨れるブルー。
我儘をぶつけるチビのブルーが、大変らしいチビのブルーが…。
毎日が大変・了
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