(ハーレイ、来てくれなかったよ…)
ちょっぴり残念、と小さなブルーが眺めた写真。
勉強机の上に飾った、ハーレイと写した夏休みの記念。
写真の中で笑顔のハーレイ、好きでたまらない笑顔はこちらを向いているけれど。
間違いなく自分のものなのだけれど、本物のハーレイは此処にはいない。
今日は仕事の帰りに寄ってはくれなかったから。
ハーレイのいない夕食の席は、やっぱり寂しかったから。
(…パパとママは、いてくれるんだけど…)
前はそれだけで幸せな食卓、家族が揃った素敵な夕食だったのに。
今ではハーレイがいないと寂しい、物足りないと思ってしまう。
両親にはとても言えないけれども、ハーレイは大切な恋人だから。
前の生から愛し続けて、今も変わらず恋しているから。
今日は会えずに終わったハーレイ、学校で挨拶したというだけ。
学校でいくら顔を合わせても、会った内には入らない。
(…会えたってことは、嬉しいけれど…)
教師と教え子として会えたというだけ、恋の欠片も混じりはしない。
ハーレイの笑顔は変わらなくても、瞳に映った自分の姿は恋人ではなくて、ただの教え子。
自分の方でも「ハーレイ先生」としか呼べはしないし、「大好きだよ」とも言えない学校。
だから寂しい、家では会えずに終わった日の夜。
恋人との逢瀬が少しも無かった、顔を合わせただけの日の夜。
そんな夜には写真を眺める、ハーレイと二人で写した写真。
ハーレイの腕に両腕でギュッと抱き付いた自分、あの日の弾んだ気持ちが鮮やかに蘇る。
まさかハーレイと写真が撮れるとは、思いもよらなかったから。
前のハーレイの写真でもいいから持っていたいと、写真集を探したくらいだから。
(…ハーレイ、ちゃんと分かってくれてた…)
お前の写真が欲しかったんだ、とハーレイは言っていたけれど。
それは自分を恋人扱いしてくれているという証拠だから。
自分も同じにハーレイの写真を欲しがっていると、何処かで気付いてくれただろうから。
そうして写せた記念写真。
シャッターを切ってくれた母には、夏休みの記念と言ってある写真。
けれど本当は恋人同士で写した写真で、今だからこういう写真が撮れる。
ハーレイと二人、くっつき合って。
恋人同士で同じ写真に収まっていられる、写真を飾っておくことも出来る。
(…前のぼくたちだと、絶対に無理…)
ソルジャーとキャプテン、そういう二人だったから。
恋人同士なことさえ秘密で、最後まで明かせずに終わった恋。
二人一緒に写った写真は、どれもソルジャーとキャプテンだった。
恋人同士で写ることなど、ただの一度も無かった二人。
それを思う度、幸せが心に満ちて来る。
今はこうして写真が撮れると、恋人同士で写せるのだと。
前の自分は撮れずに終わった、ハーレイとのプライベートな写真。
いつも、いつでも、ソルジャーとキャプテン、最後まで崩せはしなかった貌。
これが別れだという時でさえも。
メギドへ飛ぶ前に会った時さえ、やはり自分はソルジャーだった。
ハーレイに「さよなら」と伝える代わりに、ソルジャーとしての伝言だけ。
別れのキスも抱擁も無しで、白いシャングリラを離れた自分。
二度と戻れはしないのに。
ハーレイの声さえ届かない場所で、自分の命は終わるのに。
(…でも、前のぼくは…)
どれほどハーレイを愛してはいても、それよりも前にソルジャー・ブルー。
「ただのブルーだよ」とは言ったけれども、果たさねばならないソルジャーの務め。
ただのブルーになれはしなかった、ハーレイに恋をしたブルーには。
恋に生きる道を選ぶ代わりに、ソルジャーとしての死を選ぶしかなかった自分。
けれど微塵も無かった後悔、白いシャングリラを離れる時は。
ハーレイと別れて飛び立った時は、ただ前だけを見詰めていた。
さよならも言えずに別れたけれども、ハーレイとの絆はあったから。
ハーレイの腕に触れた右手に残った温もり、それをしっかりと抱いていたから。
温もりさえあれば、ハーレイは其処にいるのだから。
遠く離れた場所へ飛ぼうと、命尽きようと、かまいはしない。
ハーレイと二人、切れない絆があるならば。
絆が二人を結んでいるなら、けして一人ではないのだから。
そう思ったから、何も迷いはしなかった。
ハーレイと離れて死んでゆくことも、キスさえ出来ない別れであっても、それでいいのだと。
ソルジャーが取るべき道は一つで、恋を選んではならないと。
そんな生き方などして来なかったと、最後までソルジャーであらねばならぬと。
(…なのに、失くしちゃった…)
右手に持っていたハーレイの温もり、ハーレイと繋がる大切な絆。
それさえあればと思っていたのに、自分は落として失くしてしまった。
キースに撃たれた痛みが奪った、ハーレイの優しい温もりを。
死にゆく自分の右手に温もりは残っていなくて、切れてしまったハーレイとの絆。
(失くしちゃった、って気が付いた時は…)
もう目の前に迫っていた死。
温もりを取り戻せないままに。
ハーレイがメギドに来るわけがなくて、自分もシャングリラに戻れはしない。
どんなに求めても、右の手に温もりは戻っては来ない、絆は切れてしまったまま。
絆が切れたら、ハーレイは何処にもいないから。
探すことさえ出来はしないから、二度とハーレイには出会えない。
自分の命は此処で終わって、もうハーレイの許へは行けない。
絆は切れてしまったから。
ハーレイと自分を繋いでいた糸が、温もりが消えてしまったから。
独りぼっちになってしまった、と気付かされた時の絶望と悲しみ、それに後悔。
どうしてハーレイと離れたのかと、この道を選んでしまったのかと。
(もう会えないって…)
最後まで一緒だと思ったハーレイ、前の自分が恋したハーレイ。
誰よりも愛して、愛し続けて、死をも越えられる絆があった筈だったのに。
たとえ自分が命尽きようとも、共にいられる筈だったのに。
ハーレイとの絆は切れてしまって、メギドには自分一人だけ。
死んだ後にもたった一人で、ハーレイには二度と巡り会えない。
切れた絆は、二人を繋いでくれないから。
二度と結んでくれはしないから、何処へゆこうとも、もう会えはしない。
撃たれた痛みより、死んでゆくことより、ハーレイとの絆が切れたことがただ悲しくて。
何故この道を選んだのかと、たった一人で来たのだろうかと、酷く後悔したけれど。
それでも自分はソルジャーだからと、間違った道は選ばなかったと捧げた祈り。
白いシャングリラが、仲間たちが無事であるようにと。
けれど溢れる涙は止まらず、止めることさえ出来はしなかった。
独りぼっちになってしまったと、ハーレイには二度と会えはしないと泣き叫ぶ心。
深い悲しみと絶望の中で、後悔の中で、前の自分の命は終わった。
看取る者さえ誰もいない場所で、泣きじゃくりながら。
愛おしい人との絆を失くして、たった一人で。
そうして全ては終わってしまって、何もかも終わりの筈だった。
前の自分は死んでしまって、ハーレイとの絆も切れてしまって。
なのに、終わりは来なかった。
終わった筈の命の続きに、今の小さな自分の命。
十四歳までを普通に暮らして、ハーレイに出会って戻った記憶。
自分は誰を愛していたのか、誰と恋をして生きたのか。
遥かな遠い時の彼方で、互いの絆を育んだのか。
(…またハーレイと会えただなんて…)
メギドで泣きながら死んだ時には、見えもしなかった遠い遠い未来。
其処で再びハーレイと会って、また恋に落ちて、二人一緒に写真まで撮れた。
今の自分は小さすぎるから、前と同じにはいかないけれど。
ハーレイはキスさえくれないけれども、ハーレイは今も変わらずハーレイ。
前の自分と恋をしたことも、共に暮らした長い時間も、ハーレイはちゃんと覚えているから。
(…また君に会えると分かっていたら…)
泣きじゃくりながら死んでゆく代わりに、ソルジャーらしい最期だったろう。
ミュウの未来を、白いシャングリラの地球への旅路を思い描きながら逝ったのだろう。
自分はソルジャーらしく生きたと、これで良かったと。
思い残すことなど何一つ無いと、ミュウの未来に幸多かれと。
(…そうなっていたら、カッコいいんだけどね?)
きっと世間の人たちが思い浮かべるソルジャー・ブルーは、そういう立派な人物だろう。
後悔しながら、泣きじゃくりながら死んだとは思いもしないだろう。
(だけど、ホントは…)
泣いてたんだよ、とクスッと小さく笑える幸せ。
またハーレイと出会えたからこそ、泣きじゃくりながら死んだ自分に幸せな時が戻って来た。
失くしてしまった温もりの代わりに、今は本物のハーレイがいる。
今日は会えずに終わったけれども、小さな自分を大切にしてくれる恋人が。
(…君に会えたから、ホントに幸せ…)
また会えたものね、と写真に向かって微笑みかける。
今度こそずっと一緒だよねと、君と歩いてゆくんだものね、と…。
また会えた君・了
※ハーレイの温もりを失くしてしまって、泣きじゃくりながら死んだソルジャー・ブルー。
けれど、またハーレイと会えて、二人一緒に写真まで。ブルー君、とっても幸せですv
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