(チビなんだが…)
すっかりチビになっちまったが、とハーレイが思い浮かべた恋人。
ブルーの家には寄れなかった日に、夜の書斎で。
コーヒー片手に想うブルーは、十四歳にしかならない子供。
その姿も前の自分は見ているけれども…。
(まだ恋人ではなかったしな?)
いつか恋人同士になるとは、思ってさえもいなかった。
それが互いに恋に落ちた後、長い長い時を共に暮らして…。
(逝っちまったんだ…)
たった一人で、前のブルーは。
メギドへと飛んで、二度と戻って来なかった。
前の自分はブルーを失くして、独りきりで生きてゆくしかなかった。
シャングリラが地球へ辿り着くまで、白い鯨を約束の地へと運び終えるまで。
其処に着いたら全てが終わると、ブルーの許へと旅立てるのだと。
それだけを思って生き続けた日々、旅の終わりは死の星だった。
生命の欠片も無かった地球。
赤い死の星は、前の自分にも死を運んで来た。
深い地の底、崩れ落ちて来た天井と瓦礫。
それが自分の命を奪った、望んでいた時が訪れたけれど。
(…ブルーの所へ行ったと言うより…)
何故だか時を越えちまったぞ、と苦笑いするしかない現状。
ブルーと二人で時を飛び越えた、遠く遥かな未来に向かって。
青く蘇った地球の上へと、二人揃って生まれ変わって来た。
奇跡だとしか思えないこと、生きてブルーと出会えたこと。
次に会う時は魂だろうと、前の自分は考えたのに。
前のブルーの身体はメギドで散ってしまって、もう残ってはいないから。
気高く美しかったブルーの姿は、永遠に失われてしまったから。
けれど、魂はブルーが失くした身体と同じに、美しい姿のままだろう。
自分も魂だけになったら、またその姿を見られるだろう。
その日を夢見て生きていた自分。
いつかブルーの許にゆくのだと、魂となった愛おしい人に会えるのだと。
(…そういうつもりでいたんだがなあ…)
何がどうなったか、再び手に入れた命と身体。
前の自分とそっくり同じ姿の自分が、ブルーと再び出会っていた。
魂ではなくて、命と身体を持ったブルーと。
今のブルーと。
前の自分たちが夢に見た星、白いシャングリラで目指した地球で。
会えただけで奇跡、また巡り会えたことも奇跡だけれども…。
(…あいつも前とそっくりなんだ…)
少し幼いというだけで。
キスを交わして愛を交わすには、幼すぎるというだけで。
チビとしか呼べない姿であっても、ブルーはブルー。
前の自分が愛したブルーと、そっくり同じに生まれたブルー。
(今度は生まれつきのアルビノだしな…)
だから、ブルーの名前はブルー。
今は伝説となったソルジャー・ブルーにちなんで付けられた名前。
ブルーと名付けた両親の方は、まさか本物とは夢にも思わなかっただろうけれど。
育つほどにソルジャー・ブルーに似てゆく顔立ちも、気にしていなかっただろうけれど。
ソルジャー・ブルーと同じ髪型をさせるほどだし、楽しんでいた部分もあるかもしれない。
自分たちの子はソルジャー・ブルーに良く似ていると、子供だったらこんな具合、と。
(きっと、あちこちで可愛がられたぞ)
今よりもずっと幼い姿の、本当に小さなソルジャー・ブルー。
公園などに行ったら注目を浴びて、お菓子をくれる人などもいて。
(…前のあいつのお蔭ってヤツだ)
ソルジャー・ブルーが幼くなったらこうだろうか、と誰もが思ってしまうから。
小さくて愛らしいソルジャー・ブルーに、ついつい声を掛けたくなるから。
(俺にしたって…)
記憶が戻っていなかったとしても、見掛けたら近付いていただろう。
幼いブルーの前に屈み込んで、視線を合わせて微笑んだだろう。
「小さなソルジャー・ブルーだな」と。
それでブルーが笑んでくれたら、きっと抱き上げて遊んでやった。
肩車をしたり、それは色々と。
子供と遊ぶのは好きな方だし、ブルーが慕ってくれるなら。
そういうブルーに会い損ねたな、と思うけれども、ふと気付いたこと。
もしもブルーが前と同じに、そっくり同じに生まれていたら、と。
(…前のあいつは、アルビノになってしまっただけで…)
成人検査が引き金になって、ミュウへと変化したのがブルー。
それと同時に、ブルーの身体から抜け落ちた色素。
ミュウになる前は、金髪に水色の瞳だったというブルー。
辛うじて残った記憶の欠片を見せて貰ったから、知っている。
前のブルーが成人検査を受けた施設の壁に映った、前のブルーの本当の姿。
金色の髪に水色の瞳、生まれた時には持っていた色。
(…今のブルーが、あっちだったら…)
果たして自分は声を掛けただろうか、今よりももっと幼いブルーに。
偶然出会った公園か何処か、其処でブルーの前に屈んで。
(…きっと、気付きやしないんだ…)
金色の髪と水色の瞳は、それほど目立ちはしないから。
ブルーが自分に笑い掛けるとか、懸命に小さな手を振るだとか、そうしたことが無かったら…。
(通り過ぎて終わり…)
そうなってしまったことだろう。
記憶は戻って来てはいないのだし、「ブルーだ」と分かりはしないのだから。
何処にでもいる男の子の一人、公園に大勢いる中の一人。
実に情けない話だけれども、運命の恋人に気付きもしないで通り過ぎる自分。
まず間違いなく、そうなっていたに違いない。
ブルーがアルビノでなかったら。
金色の髪に水色の瞳、珍しくもない髪と瞳だったら。
(…小さい頃には気付かなくて、だ…)
再会を遂げた時にも、アッと驚いていたかもしれない。
ブルーには違いないのだけれども、覚えていたブルーとまるで違うと。
金色の髪も水色の瞳も、自分が見ていたものではないと。
(まさか記憶が戻った途端に、アルビノになるってことも無いんだろうし…)
成人検査のような衝撃とは違うから。
劇的な変化が起こったわけではないから、ブルーは色素を失くしてしまいはしないだろう。
金色の髪と水色の瞳、そのままで生きてゆくのだろう。
そうなっていたら…。
(…俺は前とは違うあいつと…)
向き合うことになっていたのか、と鳶色の瞳を丸くした。
そこにはまるで気付かなかった、と。
もしもブルーが前と同じに生まれていたなら、そういうこと。
色素を失くしてしまわないなら、金色の髪に水色の瞳。
そんなブルーと出会っていた。
顔立ちはそっくり同じだとしても、持っている色が違うブルーと。
金色の髪に水色の瞳。
前のブルーが持っていた色は、本当はそれだと知っているけれど。
けれども、そういうブルーは知らない。
出会った時には既にアルビノ、銀色の髪と赤い瞳と。
前の自分が恋したブルーは、愛したブルーはその色だった。
色だけに惹かれた筈などはないし、金色の髪でも、水色の瞳をしていたとしても…。
(俺は恋したと思うんだがな…?)
外見で惚れたわけではないから、その自信はある。
とはいえ、実際に前の自分が恋をして共に暮らしたブルーは、銀色の髪で赤い瞳をしたブルー。
そのブルーしか、自分は知らない。
少年だったブルーも、気高く美しかったブルーも。
(…今になって、金髪で水色の目だと…)
違和感があるのか、それとも無いのか。
これがブルーだと直ぐに馴染んで、その色に慣れてしまうのか。
きっとそうだと思うけれども、何処か寂しいことだろう。
ふとしたはずみに前のブルーを思い出しては、その姿が何処にも見当たらないと。
前の自分が失くしたブルー。
その姿を二度と見られはしないと、あの面差しはもう何処にも無いと。
同じ顔でも、同じ姿でも、色で印象が変わるから。
まるで全く同じ表情、それをブルーが見せたとしても。
赤い瞳と水色の瞳、色の違いは大きいだろう。
前のブルーは赤い瞳をしていたからこそ、意志の強さが際立った。
同じ目をしても、水色だと和らいで薄れて見えることだろう。
前のブルーの意志の強さは、一人きりでメギドへ飛んだ強さは。
(ブルーの姿にはこだわらないが…)
人間ではなくて猫の姿に生まれていようが、巡り会えたら愛しただろう。
「俺のブルーだ」と抱き締めただろう。
そういう自信はあるのだけれども、本当にそうするだろうけれども。
(…やっぱり前のあいつがいいんだ…)
前の自分が失くしたブルー。
失くしてしまった、あの姿で戻って来て欲しい。
あの時の姿で巡り会いたい。
今のブルーは少々、小さすぎたけど。
十四歳にしかならないけれども、色は同じに生まれてくれた。
もう少し待てば、前のブルーとそっくり同じに育つだろう。
銀色の髪に赤い瞳の、ソルジャー・ブルーだったブルーと同じに。
金髪で水色の瞳のブルーも、けして悪くはないけれど。
猫に生まれたブルーであっても愛せるけれども、贅沢を言っていいのなら。
(あの姿がいいな)
前のあいつとそっくり同じブルーがいいな、と思ってしまう。
あの姿がいいと、あの姿をしたブルーにもう一度会えるアルビノのブルーがいい、と…。
あの姿がいい・了
※前のブルーが持っていた本当の色は違った、と思い出してしまったハーレイ先生。
そっちの色でもいいのですけど、前と同じ色のブルー君が断然いいですよねv