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いつか行くなら
(アルテメシアか…)
 いつか行きたい場所ではあるな、とハーレイは、ふと考えた。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(…地球からだと、かなり遠いんだが…)
 それもそうか、と少し可笑しくなった。
 遠く遥かな時の彼方で、アルテメシアから地球を目指した。
 ミュウと人類の間の溝や戦い、それらを抜きにしても、長い道のりだった。
(最後の長距離ワープにしたって、とんでもない距離を…)
 ワープしたんだ、とキャプテンだったからこそ、鮮明に分かる。
 あの時のワープの出発地点は、アルテメシアよりも、ずっと地球に近かった。
(今の時代の船で行っても、地球から行くには、ワープを数回…)
 繰り返さないと無理だ、と分かっている。
 前の生での記憶が戻って来た後、何度も見たのが「アルテメシア行き」のツアー広告。
 どのくらいの日数で行けて、何処を見て回る旅になるのか、興味津々で眺めている。


(行く時は、ブルーとの旅になるよな)
 俺一人でも行けないことはないんだが、とハーレイは苦笑した。
 ツアーの日数などからして、夏休み中とかならば、時間は作れる。
 けれども、「ちょっと旅行に行って来る」と言おうものなら、ブルーはフグになるだろう。
 頬っぺたをプウッと膨らませて怒って、「ハーレイ、酷い!」と睨むに違いない。
(その上、行先がアルテメシアではなあ…)
 ブルーの怒りは「酷い!」どころか「ずるい!」に変わって、プンスカ怒って、おかんむり。
 最悪の場合、「出て行ってよ!」と怒鳴って、クッションを投げて来ることも有り得る。
(…それでホントに帰っちまったら、それはそれで…)
 怒り散らすんだ、と分かっているから、今はまだ旅に出られはしない。
 アルテメシアでなくても、自分の楽しみのために行くのは、許して貰えないだろう。
(土産をドッサリ買って来たって、土産だけ、ちゃっかり貰っておいて…)
 文句三昧でフグになるんだ、とクスクスと笑う。
 アルテメシアに行くとしたなら、ブルーと一緒に暮らし始めた後にするしかない。


 とはいえ、アルテメシアに行くとなったら、ブルーと行くのが似合いではある。
 前の生での思い出の星で、一番長く、ブルーと暮らした場所でもあった。
(…ただなあ…)
 あいつと違って、俺の場合は「思い出の場所」が無いんだよな、と顎に手を当てた。
 前のブルーは、「タイプ・ブルー」に相応しいサイオンの使い手だった。
 雲海に潜む船の外にも、自在に出られた。
(海を眺めたり、テラフォーミングされた範囲の山に降りたり…)
 外に出た「ついで」に、自然を満喫していたようだ。
 空を見上げたり、星を仰いだり、通り過ぎて行く風に吹かれたりも。
(気に入りの場所も、あちこち、あったんだろうが…)
 俺は無いんだ、と少し悲しい。
 他の仲間も同じだったけれども、船の外には出て行けない。
 潜入班の者たちだけが、外の世界に「思い出の場所」を持っていた。


 そんな事情で、ハーレイは「思い出の場所」を持たない。
 アルテメシアまで旅をしたって、もう一度、見たい場所も、行きたい場所も思い付かない。
(ツアーで行っても、いいくらいだよな…)
 お勧めコースを観光して回って、それでおしまいの「ごく普通の旅」。
 今の時代ならではの「名物料理」があったら、それも、もちろん食べられる。
(…いっそ、そういう旅にするかな…)
 それとも個人旅行で、ブルーと二人で出掛けてゆくか、と悩ましい。
 ブルーの方には「行きたい場所」があるかもしれないし、それに合わせて旅程を組む。
(…あいつ次第か…)
 どうせ行くなら、あいつが一緒なんだしな、と思うけれども、ふと浮かんだ考え。


(そうだ、記念墓地にある、俺の墓標に…)
 散々、似合わないと言われた「薔薇の花」をドッサリ供えてやろう、とクスリと笑う。
 「薔薇の花びらのジャム」を配るクジの箱さえ、前のハーレイの前は素通りだった。
 それほど「似合わない」とされた花でも、今の時代は、墓標に供えられている。
(よし、コレだ!)
 アルテメシアに着いたら、早速、花屋に出掛けないとな、とコーヒーのカップを傾ける。
 ブルーと一緒に店に入って、「薔薇の花で花束と花輪を作って貰えますか」と注文しよう。
 うんと豪華で見栄えのするものを、と付け加えるのも忘れない。
 そして花束と花輪が出来たら、ブルーと二人で供えに行こう。
 「薔薇の花びらのジャム」が似合わないと言われた、「キャプテン・ハーレイ」の墓標に。
 誰一人として気付かなくても、ブルーとハーレイだけに分かる、最高のジョークなのだから…。



         いつか行くなら・了


※いつかは行ってみたい、アルテメシア。けれど、思い出の場所が無いハーレイ先生。
 ツアーにするのも良さそうですけど、記念墓地で薔薇を供えるんなら、個人旅行ですねv






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